はじめに
本件は、原告ら(相続人)が、相続した底地について、不動産鑑定評価額で相続税の更正の請求を行い、その是非争われた裁判例です(福岡地裁H24.3.19判決TAINS:Z262-11910)(棄却・確定)。
事例概要
原告らは、被相続人(平成18年4月24日相続開始)の相続により、北九州市八幡西区に所在する甲土地、乙土地を取得した。甲土地、乙土地は、相続開始日当時、建物所有目的で賃借人に賃貸中であった(いわゆる底地である)。甲土地、乙土地の国税借地権割合は40%であった。
原告は、甲土地、乙土地(底地)の評価額として、不動産鑑定評価額(収益還元法による)を主張(以下参照)。
甲土地:650万円、乙土地:2026万6000円
被告(国)は、甲土地、乙土地(底地)の評価額として、評価通達25に基づく通達評価額を主張(以下参照)。
甲土地:1449万2012円、乙土地:2981万1200円
原告らの主張
原告らの主張としては、単に不動産鑑定評価額が評価通達25の評価額よりも低いという点だけでなく、以下の通り、借地権の売買実例がない地域なので国税借地権割合40%が不合理であるという点を評価通達によるべきでない特別の事情として主張しています。
本件においても、処分行政庁は、本件各土地の借地権割合をいずれも40パーセントであるとし、同借地権割合を用いて、本件各土地の貸宅地としての価額(底地価額)を算定している。
しかし、借地権割合は、宅地の自用地としての価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定するとされているところ(評価通達27)、本件各土地については、その近隣に借地権の売買(又は底地権の売買)の実例は全くないと思われるから、売買実例価額を求めることはできない。そして、上記のとおり借地権の売買実例がないのであるから、借地権の取引、ひいて更地価額に対する借地権の割合に精通した者も考えられず、精通者意見というものは、精通者とされる人の主観的見解(いわば直感)にすぎない。
よって、本件各土地に適用された借地権割合の40パーセントという数字は、何らの合理的な理由と根拠を持たない、いわば実体のない割合であって、これにより本件各土地の底地価額を算定することは全く不合理である。
出典:平成24年3月19日福岡地裁TAINSコード:Z262-11910 原告らの主張より抜粋(赤字は筆者強調)
被告の主張
上記原告らの主張に対して、被告としては、以下の通り反論し、特段問題なしと主張しています。
原告らは、評価通達に基づいて本件各土地を評価する際に用いた借地権割合を問題視するが、本件各土地に適用した借地権割合は、本件各土地の所在する地域の標準地につき、不動産鑑定士である精通者を人選し、精通者意見価格調書の提出を受けた上で決定したものであり、何ら問題はない。
出典:平成24年3月19日福岡地裁TAINSコード:Z262-11910 被告の主張より抜粋
裁判所の判断
肝心の裁判所の判断はというと、原告らの主張(借地権の売買実例がない地域であるという点)は理解を示してくれてはいますが、結局は、被告の主張(国税借地権割合は、売買実例だけでなく精通者意見等も踏まえて決定することとされている点)と同趣旨の結論となっています。
確かに、本件各土地の周辺においては、借地権を対象とした売買実例があまりないことがうかがわれ、売買実例を基に本件各土地の借地権の価額を算定するのは困難であると考えられる。しかしながら、評価通達27によれば、借地権の価額については、借地権の売買実例価額のみならず、精通者意見価格、地代の額等を基として評定することになっているのであり、このような場合においても、処分行政庁は、精通者意見や地代の額等を基に、本件各土地の価額を算定することができる。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各土地の上記借地権割合の算定に当たっては、本件各土地の所在する地域の標準地につき、福岡国税局長が選定した精通者3名(いずれも不動産鑑定士)から精通者意見価格調書の提出を受けているところ、実際の取引事例が乏しいことのみをもって、精通者において借地権の価額を算定することがおよそ不能であるとは考えられないことや(そうであれば、借地権の売買につき、最初の一例目の価額を決めることができなくなる。)、上記精通者3人の意見が概ね一致していることからすれば、上記精通者意見が何ら根拠を持たない主観的見解であるということはできない。
出典:平成24年3月19日福岡地裁TAINSコード:Z262-11910 裁判所の判断より抜粋(緑字は筆者強調)
私見とコメント
評価通達によるべきでない特別の事情として、国税借地権割合の妥当性を指摘するという視点は面白いなと思いました。
ただし、借地権の売買実例がない地域という主張は、借地権に経済価値が見いだされず、借地権の取引慣行が成熟していない地域ということを意味し、それは借地権価額が低いということを意味し、裏を返せば底地価額が高いという解釈にもなりかねませんので、底地の評価額を下げたい原告らの主張としてどうだったのかな?という素朴な疑問はあります。
なお、借家契約の売買実例がない地域でも国税借地権割合40%とした根拠として、福岡国税局長が選定した精通者3名(いずれも不動産鑑定士)の意見が概ね一致している点が挙げられていますが、ここはもう少し踏み込んで、3名の不動産鑑定士がどういった根拠で40%と判断したのかを被告、及び、裁判所には示してほしかったなと思うところはあります。