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相続税の節税目的で取得した収益物件につき評価通達によらず鑑定評価が採用された裁判例(令和元年8月27日東京地裁)

はじめに

今回は、少し前に話題になった裁判例(令和元年8月27日東京地裁 TAINSコード:Z888-2271)をご紹介します。

内容は、タイトルにもある通り、被相続人が生前に相続税の節税目的で多額の借入により取得した収益物件2棟の相続税申告における評価額について、相続人ら納税者は財産評価基本通達により評価して申告したところ、税務署から財産評価基本通達によることができない特別の事情があるとして、評価通達6項を適用し、鑑定評価によるべきとされた事例です。

事例概要

本文より事例概要として重要な部分を時系列でピックアップしましたのでご確認ください。

✔平成21年中に被相続人は収益物件2棟(甲不動産、乙不動産)を多額の銀行借入により購入。

✔甲不動産、乙不動産の用途等詳細は不明ですが、甲不動産は最寄駅徒歩5分の立地で基準容積率をほぼ完全に消化とあるので、おそらく高層店舗・事務所ビルのような1棟ものではないかと思われます。乙不動産は最寄駅徒歩13分の立地で、こちらも容積率をほぼ完全に消化しており、添付資料の登記簿より区分所有なのでおそらく高層の投資用ワンルームマンション1棟ものではないかと思われます。

✔借入に関して、金融機関の貸し出し稟議書に「相続対策のため不動産購入を計画。購入資金につき、借入の依頼があったもの。」、「相続対策のため本年1月に630百万円の富裕層ローンを実行し不動産購入。前回と同じく相続税対策を目的として第2期の収益物件購入を計画。購入資金につき、借入の依頼があったもの。」との記載あり。

✔平成24年6月に被相続人死亡により相続発生。相続人ら納税者は上記収益物件2棟につき、財産評価基本通達に基づき評価して相続税の当初申告を行った。

✔収益物件2棟に関しては時期はばらけているが、相続発生後にどちらも売却されている。

✔当初申告を受けて、札幌国税局長は、財産評価基本通達によるべきでない特別の事情があるとし、国税庁長官に評価通達6項を適用する旨上申し、国税庁長官よりその通り取り扱う旨の指示を受け、評価通達6項を適用。具体的には、財産評価基本通達によらず、不動産鑑定評価額で更正処分を実施。

✔納税者は国税不服審判所に審査請求するも棄却され、東京地裁に訴えを起こした。

なお、特に重要な部分をタイムラインで以下に示します。

併せて重要な部分である、各手金額について以下に示します。

税務署(国)の主張

相続税の財産評価にあたっては、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減等の観点から財産評価基本通達により画一的に行うことが合理的とされていますが、例外的に、財産評価基本通達によらないことが相当と認められるような特別の事情がある場合には、他の合理的な時価評価の方法によることができることとされています。この「特別の事情」について、評価通達6項では「著しく不当」と表現されています。

評価通達6 この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。

今回の事例で、税務署はこの評価通達6項の適用判断にあたり、いくつかの事項を挙げていますので重要な部分を抜粋してご紹介します。

(ア)本件各通達評価額と本件各不動産の時価との間に著しいかい離があること

・・・本件各通達評価額と本件各不動産の客観的交換価値を算定したものである本件各鑑定評価額(後記ウ参照)の間のほか、本件各通達評価額と本件各取引額の間には、いずれも著しいかい離が認められ、このような著しいかい離は、単なる評価手法の相違による当然の帰結として許容される範囲にとどまらない。

したがって、本件各通達評価額と本件各不動産の時価との間には著しいかい離が認められるというべきであり、評価通達の定める評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかである。

(イ)本件各不動産に係る本件被相続人及び本件共同相続人による一連の行為について

①本件被相続人が、当時90歳であった平成20年に、M銀行に対して、当時代表取締役を務めていたHの事業承継について事業経営財務診断を申し込んでいたこと、②本件被相続人による本件各不動産の購入及び購入資金の借入れには、相続税の負担軽減の目的があったこと、③本件被相続人が、Hの事業承継のための方策の一環として原告Eと養子縁組した時期(平成20年8月19日)と近接した時期に、本件各不動産を取得していること(本件甲不動産につき平成21年1月30日、本件乙不動産につき同年12月25日)等を総合して考慮すれば、本件被相続人は、本件各不動産の取得により本来原告らが負担すべき相続税を免れることになることを認識した上で本件各不動産を取得したと認められ、また、本件被相続人及び本件共同相続人による本件各不動産の取得及び当該取得に伴う資金借入れ等の一連の行為は、専ら相続対策を目的とするものであったと認められる。

ウ 本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的交換価値として適正に算定されたものであり、本件相続開始時における本件各不動産の時価を示すものであること

本件各鑑定評価額は、不動産鑑定士により不動産鑑定評価基準に準拠した方法で算定されたものであって、いずれも原価法による積算価格と収益還元法(DCF法及び直接還元法)による収益価格がそれぞれ試算され、両者が比較検討された上で、最終的には収益還元法による収益価格が重視され算定されたものであって、これらの鑑定評価の手法はいずれも合理性がある。また、本件各取引額は、いずれも、本件各通達評価額と比較して本件各鑑定評価額に近似している。

したがって、本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的交換価値として適正に算定されたものであり、本件相続開始時における本件各不動産の時価を示すものである。

出典:令和元年8月27日東京地裁 TAINSコード:Z888-2271 税務署の主張より抜粋

評価通達6項の適用要件については、税大論叢の山田重將先生の研究資料が非常に参考になります。当該資料では評価通達6項の適用要件として4つ挙げられており、それを引用させていただくと以下の通りです(筆者の方で表形式に加筆しています)。

出典:国税庁HP「財産評価基本通達の定めによらない財産の評価について-裁判例における「特別の事情」の検討を中心に-」(https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/80/02/index.htm

今回の税務署の主張も上記4要件を満たしているか1つ1つ検討して主張している点がうかがえます。

なお、税務署が採用した不動産鑑定評価について少し触れておくと、対象不動産(収益物件2棟)の類型は「貸家及びその敷地」であり、不動産鑑定評価基準では、収益価格を標準とし、積算価格及び比準価格を比較考量して決定することとされています。このうち比準価格については、土地建物一体として合理的に要因比較できる取引事例が収集困難な場合が多く、実務上は、収益価格と積算価格を2つ試算し、収益価格重視という形が一般的で、税務署の主張にある鑑定評価もそのようになっています。

鑑定評価書の中身が開示されていないので推測にはなりますが、本件の収益物件2棟は収益性が相当高い物件のようですので、収益還元法(DCF法・直接還元法)の適用において、重要かつ問題となりやすい割引率、還元利回り、最終還元利回りの査定にあたり、代替性の認められるJリート物件の鑑定評価書等の利回りデータと比準でき、実証的に査定されており、収益価格のクオリティは特段問題ないものと思われます(実際に裁判所からも鑑定評価書のクオリティに関して特段問題点は指摘されていません)。

納税者の主張

納税者の主張として個人的に気になった部分を上げると以下の通りです。

評価通達6に規定する「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる」場合とは、飽くまで時価評価に影響を及ぼす特別の事情があり、評価通達の定める評価方法によると実質的な課税の公平を確保できない場合を指すと解すべきである。行政の恣意性を排除し、明確性や予測可能性を担保する観点からも、上記の特別の事情は、災害、地盤沈下、土壌汚染等の客観的事情の発生に限られなくてはならない。したがって、時価評価に影響を及ぼすことのない、納税者等の節税目的や租税回避の目的といった主観的要素又は相続開始前後の一連の行為は、上記の特別の事情を基礎付けるものではない。

出典:令和元年8月27日東京地裁 TAINSコード:Z888-2271 納税者の主張より抜粋

納税者としてどんな主張でもするのは自由だと思いますが、赤字部分で自ら節税目的とか租税回避目的といってしまっているのはやや自分で自分の首を絞めているといいますか、肉を切らせて骨を切るような主張に感じてしまいました。。。

裁判所の判断

最後に裁判所の判断ですが、基本的に納税者の主張は認められず、税務署の主張通りで、納税者の負けとなりました。なお、納税者は控訴しているので、今後高裁判決が出てくると思いますが、おそらく同じ結果だと思われます。

おわりに

相続前に不動産購入して相続後に売却というこの手の節税手法は過去にも実際争われている事例があり、納税者が負けています。なぜまた同じミスを繰り返してしまうのか。その真意は当事者にしかわかりません。

一般的に見れば、過度な節税に走った納税者やそれを取り巻く金融機関や税理士等が悪いように見えますが、私個人的には、財産評価基本通達の欠陥というか設計ミスについてもう少し目を向けてもいいのではないかと思います。

具体的に言えば、貸家の評価減(評価通達93)、貸家建付地の評価減(評価通達26)は、借家人が居付きであることによる所有者の使用制限・利用制限のみに着目した評価減を行い、貸家及びその敷地の収益性を全く見ていないのが、評価通達の評価額と鑑定評価額が乖離する大きな原因の1つです。

もっとも、貸家及びその敷地の収益性は、全国一律に画一的に評価通達で算式化できないので、例えば、極端な話、これら評価減の通達を廃止するとか、課税時期前3年以内に取得し、かつ、取得価額と評価通達の評価額がXX%以上乖離していたらこれら評価減の通達を適用できないとか、今後今回のような事例が続くようなら検討してもいいのではないかと思っています。

路線価が地価公示の8割水準であるとか、建物の評価額が固定資産税評価額ベースであるのも評価通達の評価額と鑑定評価が乖離する原因の1つですが、この辺りをいじくると貸家及びその敷地に限らず他の不動産の評価全般に影響してしまうので、やはり上記2つの評価減の通達は今後見直しを期待したいところです。

 

 

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