不動産 相続税

市街化調整区域内の山林につき、原処分庁と請求人双方の不動産鑑定評価書の合理性が検証され、請求人鑑定が妥当と認められた事例(平成14年6月18日非公開裁決)

はじめに

本件は、請求人(相続人)が、被相続人(平成宇10年12月14日相続開始)から相続により取得した本件第1土地及び本件第2土地について、通達評価額によらず鑑定評価額で相続税申告を行い、その是非が争われた裁決例(平成14年6月18日非公開裁決TAINSコード:F0‐3‐043)です。

なお、本件の特徴としては、原処分庁(税務署)も通達評価額ではなく鑑定評価額を時価として主張している点が挙げられます。したがって、審判所ではどちらの鑑定評価書が適正か(クオリティが高いか)が争点となっています。

事例概要

✔本件第1土地(地積2,325㎡)及び本件第2土地(3,950㎡)に関して、審判所の判断における事実認定の部分を以下抜粋してご紹介します(緑色は筆者が強調)。

認定事実
原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件地域(■■市■地区)は、■■■■線■■■駅の南西方約1,200mに位置し、中央部を■■川が北東方に流れている。幅員約7mの市道が集落のほぼ中央を東西に走っているが、それ以外は、農道がそのまま生活道路となったため、狭あいでわい曲している道路が多く見受けられる。また、本件地域は、昔からの農家集落で背後に畑(茶畑等)及び雑木林地が広がっているだけで、工場や病院等の大きな施設はない。
(ロ) 本件地域は、都市計画法上、市街化調整区域に指定されており、開発行為は厳しく制限されている。また、本件地域及び地域周辺は、昔からの農家集落地域で、しかも、街路条件の悪い画地が多いことから、単独での開発は困難である。
(ハ) 本件第1土地は、農家集落の北側に位置し、幅員約7mの市道からの距離が約40mほどの奥行が長い台形の無道路地で、北側は■■川に接しており、広葉樹、竹等の雑木林となっている。
(ニ) 本件第2土地は、農家集落の北側に位置し、幅員約4mの舗装市道と幅員約2.7mの未舗装市道に接した間口に比べ奥行が極端に長い土地で、高低差平均4mの法地である。幅員約4mの市道沿いは間口が3m程度で、幅員約2.7mの市道沿いは間口が40m程度である。また、本件第2土地は、被相続人の居住用家屋の敷地と地続きで、西側は■■川に接していることから、法地であるとともに針葉樹、竹等が植えられ、いわゆる屋敷林となっている。

✔原処分庁と請求人が主張する本件第1土地及び本件第2土地の鑑定評価額は以下の通りです(本文を基に筆者作成)。

✔原処分庁と請求人の鑑定評価書の相違点としては、標準画地の認定、最有効使用の判定、取引事例の選定及び基準価格の算定が挙げられています。私個人的には、これら相違点の中で本件の勝敗を分けた部分は最有効使用の判定の部分であると考えますので以下双方の最有効使用の判定理由を本文より抜粋して紹介します。

原処分庁の鑑定評価における最有効使用の判定理由(青色は筆者が強調)

本件土地における最有効使用は、本件地域が宅地地域化するまで待ってから区画割りして、一般住宅の敷地に供することであると判定した。
その理由は、本件地域は、宅地化への期待性を有する地域であると認められることから、宅地見込地と判断され、周囲の状況から最短で10年後は宅地開発が想定されるためである。

請求人の鑑定評価における最有効使用の判定理由(赤色は筆者が強調)

本件土地における最有効使用は、当面現況利用(雑木林)とした。
その理由は、本件第1土地は、市街化調整区域内の公道までの距離が約40m程度の無道路地で、現在は何ら利用できない状態にあり、また、本件第2土地は、市街化調整区域内の幅員2.7mの市道に接した間口に比べ奥行が極端に長い土地で、高低差平均4mの法地(雑木林)となっており、現状では自宅裏に位置することから、防風林と法地としての効用しかないためである。なお、市街化調整区域内の土地は、駐車場あるいは資材置場に転用することが可能であるが、本件第2土地は、法地でしかも間口に比べ奥行が極端に長いことから、駐車場等に転用するには、多額の造成工事費が必要なこと、通路を布設すると有効面積が相当縮小されること、幅員2.7mの道路では大型車の利用ができないこと等から駐車場等として使用することはできない

審判所の判断

審判所は、原処分庁と請求人の鑑定評価書の相違点について1つ1つ合理性(クオリティ)を比較しています。上記の通り、ここでは最有効使用の判定に関する審判所の判断部分を以下抜粋してご紹介します(結論部分を緑色で強調)。結果的には、請求人の鑑定評価の最有効使用判定の合理性が認められ、請求人の鑑定評価額が時価と認められました(珍しく請求人の勝ち)。

最有効使用について
上記イの(ロ)及び(ハ)のとおり、本件第1土地は、市街化調整区域内にあり、幅員7mの市道までの距離が約40m程度の無道路地で、その北側は■■川に接しており、これを駐車場等に転用することはほとんどできない状況にある。

また、上記イの(ロ)のとおり、本件第2土地は、市街化調整区域内にあることから、宅地に転用することは困難であるが、駐車場又は資材置場等に転用することは可能である。しかしながら、駐車場又は資材置場等に転用するには、上記イの(ニ)のとおり、幅員約4mの市道と幅員約2.7mの市道に接した間口に比べ奥行が極端に長い高低差が平均4mの法地で、その北西側が■■川に接している本件第2土地の現状からすると、①法地の状況から多額の造成工事費が必要なこと、②奥行が極端に長いことから通路を布設すると有効面積が相当縮小されること、③幅員約4mの市道に面する間口は3m程度しかなく、もう一方の間口は40m程度あるが、その面する市道の幅員は約2.7mであることから、駐車場又は資材置場等に転用したとしても、大型車が利用することはほとんどできない状況にあること等から、現実には駐車場又は資材置場等として使用することは困難であると認められる。

したがって、本件第1土地の現状は、広葉樹、竹等の雑木林となっており、また、本件第2土地の現状は、法地であるとともに針葉樹、竹等が植えられた、いわゆる屋敷林となっていることから、本件土地における最有効使用は、当面現況利用と判断するのが相当である

なお、原処分庁は、本件土地の最有効使用は、本件地域が宅地化への期待性を有する地域であると認められることから、最短で10年後は宅地開発が想定され、区画割りして一般住宅の敷地に供することである旨主張する。しかしながら、上記イの(ロ)のとおり、本件地域は、都市計画法上、市街化調整区域に指定されて開発行為は厳しく制限されており、また、本件土地の現状を考えれば、原処分庁の主張は採用することはできない

筆者コメント

原処分庁の鑑定評価書は、宅地化の期待性を有する宅地見込地で最短10年以内の宅地化を最有効使用と判定していますが、宅地見込地の鑑定評価に当たっては、特に宅地化する蓋然性が高いか低いかの判断が重要になります。

宅地化する蓋然性が高いと判断される場合には、取引事例比較法と熟成度修正による方法を適用しますが、宅地化する蓋然性が低いと判断される場合には、取引事例比較法を標準に、宅地化前の林地の価格に宅地化する期待性を加味する方法比較考量することになります。

不動産鑑定評価基準では、宅地化する蓋然性の判断にあたり、以下のような事項を総合的に勘案することが定められています。

この場合においては、特に都市の外延的発展を促進する要因の近隣地域に及ぼす影響度及び次に掲げる事項を総合的に勘案するものとする。
1.当該宅地見込地の宅地化を助長し、又は阻害している行政上の措置又は規制
2.付近における公共施設及び公益的施設の整備の動向
3.付近における住宅、店舗、工場等の建設の動向
4.造成の難易及びその必要の程度
5.造成後における宅地としての有効利用度

出典:不動産鑑定評価基準 各論1章 宅地見込地の鑑定評価における総合勘案事項

本件についてみると、上記総合勘案事項1の宅地化を阻害している行政上の規制として、市街化調整区域が挙げられ、これは宅地化する蓋然性を低める事項にあたります。また、事実認定より付近において工場や病院等の大きな施設はないとのことから、上記総合勘案事項2,3の観点からも宅地化の蓋然性の低さがうかがえます。さらに、事実認定より法地の状況から多額の造成工事費が必要なこと、奥行が極端に長いことから通路を布設すると有効面積が相当縮小されることが読み取れ、上記総合勘案事項4,5の観点からも宅地化の蓋然性の低さがうかがえます。

事実認定の結果を上記不動産鑑定評価基準の総合勘案事項に1つ1つあてはめてみれば、本件各土地の宅地化の蓋然性は低いと言わざるを得ず、宅地化の蓋然性が高い宅地化見込地と判断した原処分庁の鑑定評価書の合理性(クオリティ)は低いと考えられます。いくら取引事例比較法や熟成度修正する方法の各手法の適用過程にミスがなくクオリティが高くても、その前提である最有効使用の判定を誤ってしまうと致命傷です。

 

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