不動産 相続税

相続税申告で納税者の主張した鑑定評価の開発法の前提となる対象不動産の最有効使用判定及び開発法のクオリティが問題視された裁決例(平成8年6月13日公開裁決)

はじめに

今回は、請求人ら(相続人)が、相続した宅地の評価について、評価通達によらず不動産鑑定評価額で更正の請求をし、その評価額が争われた裁決例(平成8年6月13日公開裁決)ご紹介します。国税不服審判所HPで全文確認できますのでリンクを掲載しておきます。

国税不服審判所HPリンク:https://www.kfs.go.jp/service/JP/51/31/index.html

審判所の判断部分では、請求人の不動産鑑定評価書の合理性(クオリティ)について、開発法以外に取引事例比較法の問題点等も指摘されていますが、ここでは開発法の指摘事項に絞ってご紹介します。

事例概要

✔請求人らは、被相続人(平成4年3月17日相続開始)より地積590.84㎡の宅地(本件土地)の持分9/10を相続により取得した。

✔原処分庁は、評価通達に基づき、本件土地の単価を732,600円/㎡と評価した。

✔請求人らは、相続税の当初申告及び修正申告では本件土地につき評価通達で評価しているが、更正の請求で不動産鑑定評価額を主張した。鑑定評価額は、取引事例比較法による比準価格733,000円/㎡と開発法による価格624,000円/㎡を等しくウエイトづけし、679,000円/㎡と決定されている。開発法の部分を抜粋すると以下の通りである。

開発法を適用して本件宅地の1平方メートル当たりの試算価格を下記の手順により求めた。

(A)本件土地の近隣地域内の幅員6メートルの公道沿いに、間口対奥行が1:1.5の標準的画地(地積約150平方メートル程度)を想定し、この標準的画地と類似する取引事例4件((1)P市S町3丁目所在の宅地126.16平方メートル、(2)P市R町3丁目所在の宅地137.98平方メートル、(3)P市W町2丁目所在の宅地167.92平方メートル、(4)P市W町5丁目所在の宅地199.58平方メートル)を抽出し、これらの取引価額のそれぞれに事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差の比較に基づく価格修正を行い、4件の価格の中庸値をもって標準的画地の1平方メートル当たりの比準価格を818,000円と求めた。

(B)標準的画地の純収益をP市S町3丁目所在の物件を採用して、次の算式により収益還元法(土地残余法)による収益価格を求めた。

13,728円(1平方メートル当たりの純収益)÷3%(還元利回り)=約458,000円(収益価格)

(C)本件土地に最も近く、かつ、同一の用途地域にある本件公示価格に、時点修正、地域格差の比較に基づく修正を行い、1平方メートル当たりの規準価格を893,000円と求めた。

(D)標準的画地の価格の決定
 上記(A)ないし(C)により求められた価格から、比準価格を重視し、収益価格も十分考慮に入れ、公示価格を規準とする価格との均衡にも留意して、1平方メートル当たりの標準的画地の価格を850,000円と決定した。

(E)本件土地の開発有効面積を519.84平方メートルと算定し、これを4区画に分割して分譲することを想定し、分譲収入を次の算式により求めた。

850,000円/平方メートル(標準的画地の価格)×0.96(平均評点)×519.84平方メートル(分譲面積)=424,189,440円(分譲収入)

(F)次いで売上収入を6か月経過時10パーセント、9か月経過時40パーセント及び12か月経過時50パーセントと想定して、それぞれに複利現価率を乗じて売上収入の総額を381,758,872円、造成工事費、販売費・一般管理費などの経費の総額を13,251,190円と見積もって次の算式により開発法による本件土地の1平方メートル当たりの価格を624,000円と算定した。

381,758,872円(収入の総額)-13,251,190円(経費の総額)=約368,500,000円(624,000円/平方メートル)(土地の価格)

あわせて、鑑定評価を行った不動産鑑定士の答述内容のうち開発法に係る部分を抜粋すると以下の通りです。

本件土地の鑑定評価には、開発法を適用し、本件土地を4区画に分割することを想定して価格を求めたが、その試算に当たっては、具体的な開発計画書などは作成せず、メモ程度のもので行った。

開発法における収益(売上)の予想を6か月経過時を10パーセント、9か月経過時を40パーセント及び12か月経過時を50パーセントとしたのは、自分の判断で、一般的な予想を立てたものである。

出典:平成8年6月13日公開裁決 審判所の判断部分より抜粋

筆者コメント

上記開発法では、対象不動産を4区画に区画割りして宅地分譲する前提で開発法を適用しています。

個人的に気になった点は以下の通りです。不動産鑑定評価書の全文がそのまま公開されていないので、もしかしたら評価書に記載があるのかもしれませんが、肝心の不動産鑑定士の答述内容から推察するに、残念ながら開発法のクオリティがかなり低いと思慮されます。

①(F)の造成工事費、販売費・一般的管理費などの経費総額13,251,190円の見積り根拠が不明である点

②(F)の売上収入の複利現価率の基となる投下資本収益率の査定根拠が不明である点

③(F)の造成工事費、販売費・一般的管理費など各経費の支出時期(スケジュール)が不明であり、支出時期から価格時点まで割引計算していない点(複利現価率を乗じていない点)

審判所の判断

審判所は、以下の通り、請求人らの鑑定評価書の開発法の問題点を指摘しています。

本件鑑定書においては、面大地を理由として開発法を採用して本件土地の価格を算定しているが、当審判所の調査によれば、本件土地の面積は、近隣に所在する画地と比較しても特に著しく広大であるとは認められず、更に、本件土地の約3分の2が住居地域(国道×号線の東側道路境界線寄り)にあり、近隣にマンション等の大型集合住宅が数多く建築されている状況を考えれば、本件土地の周辺においては、マンション等の敷地としての利用が成熟していると認められ、このような場合、土地価格比準表(昭和50年1月20日国土地第4号国土庁地価調査課長通達「国土利用計画法の施行に伴う土地価格の評定等について」)には、住宅地の適用上の留意事項に、「(画地条件に係る地積の過大による減価について)第2種住居専用地域、住居地域において、マンション敷地としての利用が成熟している場合には、一戸建住宅の敷地との比較において広大地と判定される画地であっても地積過大による減価を行う必要がないことに留意すべきである」との規定が設けられていることからしても、開発法の理論的なことはともかく、これを本件土地の時価を算定する方法として採用することは、実態に則さないものと判断されるほか、本件鑑定書における開発法による価格は、具体的な開発計画書が存在せず、基礎となる開発計画の内容が不明なためその適否が確認できないこと及びその算定の基礎となる収支内訳や開発スケジュールが具体的根拠のない想定に基づくものであり、その価格は流動的なものであることから、開発法による価格が本件土地の実証的な価格であると認めることはできない。

出典:平成8年6月13日公開裁決 審判所の判断部分より抜粋(緑字は筆者強調)

先に述べたように、審判所は、開発法以外に取引事例比較法の問題点も指摘しており、結果的には、請求人の主張は認められませんでした。

筆者コメント

審判所の指摘で強調した部分2か所(緑字部分)のうち後段の指摘は、先に私がコメントしたのと同趣旨で開発法自体のクオリティの低さが指摘されています。

もう1箇所前段の指摘は、簡単にいうと、対象不動産を4区画に区画割りして宅地分譲する前提で開発法を適用してるけど、そもそも対象不動産はマンション適地だから、宅地分譲想定ではなくマンション分譲を想定すべきであったのではないか?という指摘です。

鑑定評価的に言えば、対象不動産の最有効使用の判定が誤っているのではないか?ということです。

請求人らの鑑定評価における対象不動産の最有効使用:宅地分譲

審判所の指摘する対象不動産の最有効使用:マンション分譲

鑑定評価では、対象不動産の最有効使用の判定は、開発法の適用以前に行われるものであり、本件土地の最有効使用が宅地分譲なのか、マンション分譲なのかで開発法の適用方法も大きく異なります。実務上、どちらの可能性もあり得る場合には、それぞれ開発法を適用して試算された価格を比較して大きい方を最有効使用と判断する方法もあります。請求人らの鑑定評価書でも、宅地分譲の開発法とマンション分譲の開発法をそれぞれ試算して宅地分譲の方が大きな価格が試算されているので宅地分譲が最有効使用であるといった具合に最有効使用の判定根拠が書かれていれば話は変わっていた可能性もあるかと思われます。

後段の指摘(開発法自体のクオリティが低いとう部分)に目がいってしまいますが、いくら開発法自体のクオリティが高くても、各手法適用の前提となる最有効使用の判定に疑義があるようだと鑑定評価書全体のクオリティが低いと判断されてしまいますので、最有効使用の判定の重要さを再確認させられる事例かと思います。

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