不動産 法人税 消費税

法人が取得した競売物件の土地・建物等のあん分比率として不動産鑑定評価書によるべきとの納税者の主張が認められなかった事例(公表裁決 H27.6.1)

はじめに

本件は、請求人が、競売により土地とともに一括取得した建物等について、落札金額を路線価及び類似建物の価額などであん分して算出した取得価額を基に法人税の減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算して申告したところ、原処分庁が、建物等の取得価額は、固定資産税評価額による土地と建物等の評価額の比率に基づき算出すべきであるとして、法人税並びに消費税及び地方消費税の各更正処分等を行ったのに対し、請求人が、当初の申告に用いたあん分比が認められないとしても、不動産鑑定士の鑑定評価による土地と建物等の評価額の比率によるべきであるなどとして、これらの処分の一部の取消しを求めた事例です(公表裁決 H27.6.1)。

請求人(法人)としては、建物の金額が大きければ大きいほど、法人税の計算上多額の減価償却費が計上できて有利、かつ、多額の課税仕入が計上でき消費税の計算上も有利ということで、土地建物の内訳価格のあん分において、できるだけ建物の金額を大きくしたいという思考になりがちです。

本件でも、請求人主張の不動産鑑定評価額の比率によるあん分の方が、原処分主張の固定資産税評価額の比率によるあん分よりも建物の金額が大きくなっており、不動産鑑定評価額の比率があん分比率として妥当か否かが争点となっています。

請求人が取得した競売物件について

請求人が取得した競売物件の建物について、審判所の判断における認定事実より以下2か所抜粋してご紹介します(下線は筆者)。

1.競売物件の評価書の記載内容

本件競売において、一般の閲覧に供された評価人Mの作成による本件不動産に係る評価書(以下「本件競売評価書」という。)によると、上記ハの売却基準価額の○○○○円の算定根拠は、要旨以下のとおりである。

(イ) 評価日は平成22年12月29日である。

(ロ) 本件不動産の積算価格を○○○○円、収益価格を○○○○円と求め、これらの価格を同等に評価して調整後の合計価格を○○○○円と算出した上、競売市場修正等を行って評価額○○○○円を決定した。

(ハ) 上記(ロ)の積算価格の基礎となる価格の内訳は、本件土地が○○○○円及び本件競売建物が○○○○円であり、本件競売建物の価格の算出に当たっては、建物の再調達原価を基礎として、経過年数約○年等を加味して算出されている。

2.競売物件の建物の工事請負契約書等

J社が本件競売建物の建築に際してN社(旧社名:P社)と締結した平成○年3月25日付の工事請負契約書及びその添付書類である同月付の見積書並びに同年9月29日付の工事請負契約書(以下、これらの書面を併せて「本件工事請負契約書等」という。)に記載された新築請負代金の合計額は、630,000,000円(消費税等相当額を含む。)である。

請求人主張の不動産鑑定評価額について

請求人主張の不動産鑑定評価書のうち、建物の再調達原価の査定根拠の部分を抜粋して以下紹介します(下線は筆者)。

本件K評価書の別表4-(1)ないし4-(6)である「原価法(建物)」には、建物再調達原価及び建物積算価格の算定過程が示されており、その内容は、要旨以下のとおりである。

A 純工事費(単価)は、対象建物と構造・用途・仕様等の類似する建物の実際建設費(見積実例資料)に基づき査定しているところ、当該査定の事例としたのは、財団法人建設物価調査会が発行する「建物実例データ集 改訂版 建物の鑑定評価必携」に掲載された用途及び構造が類似する2件の建設事例であった。

B 上記Aの2件の建設事例による純工事費に時点修正及び格差修正を行い求めた2つの価格を関連付けて「対象建物の純工事費(単価)」と題する表に対象建物の純工事費「353,971円/平方メートル」が記載されている。当該表には、本件内部造作も同時に取得していることから、便宜上、その他設備の部分で考慮した旨、及び本件内部造作の経済的耐用年数を設備と同じ15年と判断するからであるとの理由を付して、本件内部造作部分を「その他設備工事」とし、その単価を「37,500円/平方メートル」として純工事費の計算に加えている。

C 建物再調達原価は「492,000円/平方メートル」と、建物積算価格は「379,000円/平方メートル」と算定されている。

不動産鑑定評価基準では、建物の再調達原価の査定方法として直接法(対象建物の実際の工事費を基に適宜時点修正等する方法)と間接法(対象建物と類似する建物建設事例の工事費を補修正する方法)の2つの方法が定められていますが、請求人主張の鑑定評価書は間接法を適用しています。

なお、以下不動産鑑定評価基準の定めのとおり、直接法と間接法を必ず両方適用しなければならないとはされてはいません。

再調達原価を求める方法には、直接法及び間接法があるが、収集した建設事例等の資料としての信頼度に応じていずれかを適用するものとし、また、必要に応じて併用するものとする。

出典:不動産鑑定評価基準総論第7章第1節Ⅱ2.(2)③

ちなみに、不動産鑑定士が建設事例の収集によく用いる財団法人建設物価調査会が発行する『建物実例データ集 改訂版 建物の鑑定評価必携』の最新版はこちらです↓

審判所の判断(請求人主張の鑑定評価書のクオリティに関する部分)

審判所は、請求人主張の不動産鑑定評価額の合理性(クオリティ)について以下のような問題点があり合理性なしと判断しています(下線は筆者)。結果、請求人主張は認められませんでした。

本件K評価書における評価額は、次のとおり、必ずしも合理性のある算出価額とはなっていないものと認められる。

A 上記1の(4)のヘの(ト)のAのとおり、純工事費(単価)の算定上、財団法人建設物価調査会が発行する「建物実例データ集 改訂版 建物の鑑定評価必携」に掲載された本件競売建物と構造・用途・仕様等の類似する建物の建設事例に係る実際建設費(見積実例資料)に基づく査定を行っているところ、上記(1)のヌのとおり、本件競売建物が鉄筋コンクリート造であるのに対して、これと異なる構造である鉄骨造の建物が選定されていること。

B 本件競売建物の建築に当たって、上記(1)のホのとおり、本件工事請負契約書等に記載された新築請負代金の合計額は630,000,000円であり、また、本件競売評価書にあっては、同(1)のニの(ハ)のとおり、本件競売建物の積算価格の基礎とされた価格が経過年数約○年等を加味された上で○○○○円とされているところ、本件K評価書の本件競売建物の評価額である1,220,000,000円は、本件競売建物の新築請負代金の合計額の約2倍、本件競売評価書の積算価格の基礎とされた価格の約X.X倍に相当する額の評価がされていること。

なお、「約X.X倍」の部分は、TAINS:J99‐3‐10によれば「約2.7倍」とされています。

私見とコメント

今回は、建物再調達原価の査定根拠のクオリティの低さが原因で鑑定評価書の合理性(クオリティ)が低いとされてしまっています。

対象建物と躯体構造の異なる建設事例を使って間接法を適用している点は、確かに類似する建設事例とは言えないですし、構造の違いを補正するにも補正率をどう査定するかが難しいところです。

そして、間接法で査定した建物再調達原価から経年約5年分の減価修正を行い査定した建物積算価格が、対象建物の実際の新築コスト(630,000,000円)の約2倍であり、かつ、競売評価書の積算価格の約2.7倍であるということですので、間接法で査定した建物再調達原価がおかしいのは明らかです。

請求人が依頼した不動産鑑定士が対象建物の実際の工事請負契約書等の入手が困難であり、直接法の適用を断念せざるを得なかったとしても競売評価書の積算価格との比較はできたのではないかと思います。

本件は、当初申告は請求人が独自の方法で案分し、その後争いになったタイミングで不動産鑑定評価を依頼しているのである程度依頼者の望む建物価格のラインがあり、不動産鑑定評価士には依頼者プレッシャーが働いたのかもしれません。その点は置くとしても、不動産鑑定士として建物再調達原価の査定にあたり、安易に直接法の適用を断念し間接法を適用すべきでない点や間接法を適用する場合の建設事例の選択、検証の重要性が改めて勉強になる事例かと思います。

追記

本件裁決後に納税者が起こした裁判では、なんと裁判所選任の不動産鑑定士による不動産鑑定評価額の比率での按分が合理的との判断がなされました。気になる方はぜひこちらの記事も併せてお読みください。

土地建物の取得価額のあん分方法として税務署主張の固定資産税評価額の比率ではく、裁判所採用の不動産鑑定評価額の比率が妥当とされた事例(東京地判 R2.9.1)

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