不動産 法人税 消費税

土地建物の取得価額のあん分方法として被告(国・税務署)主張の固定資産税評価額の比率ではく、裁判所採用の不動産鑑定評価額の比率が妥当とされた事例(令和2年9月1日東京地裁判決)

はじめに

本件は、以下国税不服審判所HP公表裁決で負けた納税者が起こした裁判です。

法人が取得した競売物件の土地・建物等のあん分比率として不動産鑑定評価書によるべきとの納税者の主張が認められなかった事例(平成27年6月1日公表裁決)

なお、この東京地裁の存在については、Twitterで相互フォローさせていただいている@taklawya先生から教えていただきました。@taklawya先生は元国税審判官であもり、ご自身のnoteで非公開裁決の解説されており、大変勉強になりますので気になる方はぜひ先生のnoteに立ち寄ってみてください。今回のような気づきを提供してくださった@taklawya先生に感謝します。

東京地裁の判断

上記国税不服審判所では、納税者が主張した不動産鑑定評価額の比率は認められませんでした。

地裁では、納税者からの申し出により地裁が新たに選任した不動産鑑定士による不動産鑑定評価額(以下「本件鑑定(裁判所鑑定)」)の合理性が検討され、裁判所鑑定の比率によるべきと判断されました(一部取り消し)。

被告(国・税務署)主張の固定資産税評価額の比率に関して、東京地裁は以下の通り述べています。やや長いですが、非常に重要な部分ですので全文引用させていただきます(緑色部分は筆者強調)。

被告は,固定資産評価基準に従って評価された価格は特段の事情がない限り適正な時価であると推認されるため,本件不動産を構成する各資産に係る固定資産税評価額の価額比を用いて本件落札金額を按分することが合理的である旨を主張する。

しかしながら,固定資産評価基準の定める評価方法が,適正な時価を算定する方法として一般的な合理性を有するものであるとしても,この評価方法に従って決定された価格は,特段の事情のない限り当該資産の客観的な交換価値としての適正な時価を上回るものではないことが推認されるにとどまるものというべきである(最高裁平成24年(行ヒ)第79号同25年7月120 2日第二小法廷判決・民集67巻6号1255頁参照)。また,地方税法が,固定資産税の課税標準に係る固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を総務大臣の告示に係る評価基準に委ねている(388条1項)のは,固定資産税の賦課期日における土地課税台帳等の登録価格が同期日における当該資産の客観的な交換価値を上回らないようにすることのみならず,全国一律の統一的な評価基準による評価によって,各市町村全体の評価の均衡を図り,評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消することをも目的とするものであり,かかる目的の下に行われる評価は,適正な鑑定の評価の過程において考慮の対象とされるような当該資産の個別的な事情については,ある程度捨象されることも前提としているものということができる。

これらに照らすと,本件のように,法人税に係る減価償却費の額及び消費税の課税仕入れに係る支払対価の額を計算するために,一括して取得された土地及び建物等の取得価額を按分する方法として,当該資産の客観的な交換価値を上回らない価額と推認される固定資産税評価額による価額比を用いることは,一般的には,その合理性を肯定し得ないものではないが,当該資産の個別事情を考慮した適正な鑑定が行われ,その結果,固定資産税評価額と異なる評価がされた場合には,もはや,固定資産税評価額による価額比を用いて按分する合理性を肯定する根拠は失われ,適正な鑑定に基づく評価額による価額比を用いて按分するのが合理的となるというべきである。

 
どんな鑑定評価でもOKというわけではなく、「個別事情を考慮した適正な鑑定」というように鑑定評価のクオリティの高さは求められますが、それでも一概に固定資産税評価額の比率でやるべきであるという判断ではなく不動産鑑定評価額の存在意義がしっかり認められている点は不動産鑑定評価士としては嬉しい限りです。また、鑑定評価額による建物比率が固定資産税評価額による建物比率を上回るためには、例えば、固定資産税評価額には反映されていない建物の個別事情(増改築等の建物価値アップにつながる資本的支出の実施、良好な維持管理・修繕の実施等)が挙げられると思います。
 

裁判所鑑定のクオリティ

東京地裁は、裁判所鑑定の合理性(クオリティ)について検証し、適正な鑑定が得られたと判断しています。納税者主張の鑑定評価書(以下「L評価書」)は国税不服審判所の判断と同時にクオリティが低いと判断されてしまっています。
 
では、裁判所鑑定と納税者のL評価書はどんな点が異なっていたのかが気になるところですが、本文の該当箇所すべて抜粋すると相当な分量になりますので以下私の方で簡単に図式化したものをご紹介します。不動産鑑定評価に詳しい方はぜひ上記裁判所HPの本文をお読みいただければと思います。
 
 
 
ご参考までに、被告(国・税務署)主張の固定資産税評価額もご紹介しておきます。
 
両者の違いはいくつかあるのですが、まず手法適用方針が異なります。
L評価書は原価法1本で評価していますが、裁判所鑑定は原価法と収益還元法を適用して土地建物一体の鑑定評価額を決定し、その土地建物一体の鑑定評価額を原価法の各構成部分の構成比であん分して内訳価格を査定しています。ただし、この手法適用方針の違いは本件ではあまり重要性は高くありません。
 
両者の違いで重要なのは、原価法による建物の再調達原価の査定方法(赤字部分)、及び、収益還元法による純収益の査定方法(青字部分)です。
 
原価法による建物の再調達原価の査定方法(赤字部分)について
納税者のL評価書は間接法しか適用していないのに対し、裁判所鑑定は直接法と間接法を両方適用し、直接法を重視しています。納税者のL評価書が間接法の適用にあたり採用した建設事例の問題点は国税不服審判所の判断とほぼ同様の点が東京地裁でも以下の通り指摘されています(緑色部分は筆者強調)。
 
しかしながら,L評価書において本件建物等の積算価格の基礎とされた再調達原価は1㎡当たり49万2000円であって(認定事実(2)イ(イ)),これは,本件鑑定における再調達原価(1㎡当たり23万円)の2倍を超える上,本件建物等の実際の工事価格(時点修正後の価格は,1㎡当たり約22万円)とも大きくかい離している。このような結果となったのは,L評価書において再調達原価を求めるに当たり参照された建設事例が,いずれも,地下2階建てであるなど本件建物等と構造や階数が異なる上,建具にも高価な部材等が使用されるなど,一般的な工事価格の範囲と比較しても相当高額な工事価格によるものであったことに起因するものと解されるところ,これらの建設事例を参照した理由につき合理的な説明がされたとは認められない。
 
収益還元法による純収益の査定方法(青字部分)について
納税者のL評価書は収益還元法(建物残余法)の適用における純収益の査定において、評価日時点の現行賃料を採用しています。一方、裁判所鑑定は収益還元法(土地建物一体の直接還元法)の適用における純収益の査定において、評価日時点の現行賃料ではなく市場賃料を採用しています。裁判所鑑定が現行賃料ではなく市場賃料を採用した根拠は、評価日時点の現行賃料が市場賃料よりも割高であり、将来的にテナントが退去して賃料収入が下落する可能性を考慮したとされています。以下、裁判所鑑定の行った評価日時点の賃貸市場の分析結果及び収益還元法の純収益における賃料査定根拠をご確認ください(緑色部分は筆者強調)。
 
なお,平成23年6月1日時点の不動産賃貸市場の動向は,同年3月の東日本大震災後の自粛ムードが払拭されつつあり,駅から近い物件の1階,アクセスの良い2階・地下1階,坪単価2万円程度(10~20坪)の居抜物件等に対する需要は旺盛になってきたものの,駅から遠い物件,上層階の物件,高額賃料物件,スケルトン店舗(スケルトン貸しにより賃貸される店舗),リース店舗(内装付きで賃貸される店舗)等については,空室が長期化していた。また,T地区の店舗賃料は下落傾向にあった。(本件鑑定書14~15頁)
 
まず,賃料収入の算定については,平成23年6月1日時点現在の不動産賃貸市場動向(上記(1)オ)を考慮して,当時の本件建物の各賃貸物件に係る現行賃料は市場相場よりも高位にあったとし,そのことから,市場参加者が本件不動産の取得を検討するに際しては,将来においてテナントが退出し賃料収入が下落する可能性を考慮した可能性が高いとして,現行賃料ではなく市場賃料に基づく純収益を採用し,かつ,市場水準の還元利回りを採用することとした(本件鑑定書26頁)。
 

筆者コメント

納税者のL評価書のクオリティを大きく下げる原因となったのは上記2点(建物再調達原価の査定根拠、及び、収益還元法の賃料査定根拠)です。
 
建物再調達原価の査定根拠に関しては、以下国税不服審判所の記事の方でコメントしているのでここではコメント省略します。
 
収益還元法の賃料査定根拠に関しては、現行賃料水準と市場賃料水準の乖離の程度は必ず分析検討しなければならない部分です。現行賃料水準が市場賃料水準と同程度であれば現行賃料水準を妥当と判断してそれを採用することもできますが、乖離が認められる場合には乖離原因は何か?現行賃料を採用すべきか?市場賃料を考慮して中長期的な視点で標準化した賃料を査定して採用すべきか?等を検討することになります。納税者のL評価書は、現行賃料水準と市場賃料水準の乖離の程度の分析が不十分であったか、分析してはいたものの、建物価格を高く出さなければいけない依頼者プレッシャーが働き市場賃料より割高な現行賃料を採用したのかいずれかであったのではないかと思われます。
 
いずれにしても税理士としては、本件のように土地建物一体の取得価額が高額で金額的重要性が高い不動産ほど内訳価格のあん分比率が少し違うだけで法人税と消費税に大きな影響が出ますので、固定資産税評価額の比率1本でおしまいではなく、本件を踏まえ不動産鑑定評価額の比率による方法もある点をクライアントに説明する必要はあると思います。鑑定評価を使う場合は、複数鑑定を採り万全を期すのもよいのではないでしょうか。
 
また、不動産鑑定士としては、安易に依頼者から指示された建物価格ありきの鑑定評価を行うべきではないのは言うまでもありませんが、建物再調達原価の査定根拠や収益還元法の賃料査定根拠に関しては普段の実務でも特に留意すべきであることを改めて感じさせられる事例だったと思います。
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