不動産 経理実務

賃貸等不動産の時価開示基準で不動産鑑定士に価格調査が求められる場面

はじめに

先に、固定資産の減損会計で不動産鑑定士に価格調査が求められる場面の記事を書きましたが、今回は、賃貸等不動産の時価開示基準で不動産鑑定士に価格調査が求められる場面についてご紹介します。

賃貸等不動産の時価開示基準の核となる部分

正式名称は、「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」といいますが、基準の内容自体は他の基準に比べてすごくボリュームが少ないです。

会計処理についての取扱いを示す基準ではなく、開示(注記)オンリーの基準なのでボリュームが少ないのだと思いますが、個人的にこの基準の核となる部分は、2つしかなく、1つ目が「賃貸等不動産」の定義(意義・範囲)であり、2つ目が注記事項だと思います。

1つ目の「賃貸等不動産」の定義に関しては、基準を引用すれば以下の通り規定されています。

「賃貸等不動産」とは、棚卸資産に分類されている不動産以外のものであって、賃貸収益又はキャピタル・ゲインの獲得を目的として保有されている不動産(ファイナンス・リース取引の貸手における不動産を除く。)をいう。したがって、物品の製造や販売、サービスの提供、経営管理に使用されている場合は賃貸等不動産には含まれない。

出典:賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準4(2)

もう少し細かい内容について適用指針の方に書いてあるのですが、今回は賃貸等不動産の定義や範囲を紹介するのが本題ではないので割愛します。

2つ目の注記事項について、基準を引用すれば以下の通り規定されています(赤字部分は筆者加筆)。

賃貸等不動産を保有している場合は、次の事項を注記する。ただし、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合は注記を省略することができる。また、管理状況等に応じて、注記事項を用途別、地域別等に区分して開示することができる。

(1) 賃貸等不動産の概要
(2) 賃貸等不動産の貸借対照表計上額及び期中における主な変動
(3) 賃貸等不動産の当期末における時価及びその算定方法
(4) 賃貸等不動産に関する損益

出典:賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準8

不動産鑑定士に価格調査が求められる場面

さて、本題の不動産鑑定士に価格調査が求められる場面ですが、先にご紹介した注記事項の部分で赤字で示した部分が、まさに不動産鑑定士に価格調査が求められる場面になります。

まず、基準では、賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合には注記を省略することができると規定していますが、この点につき適用指針では以下の通り補足しています(赤字部分は筆者加筆)。

賃貸等不動産の総額に重要性が乏しいかどうかは、賃貸等不動産の貸借対照表日における時価を基礎とした金額と当該時価を基礎とした総資産の金額との比較をもって判断することとする。

出典:賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針8

つまり、注記自体を省略できるかどうかの総額の重要性の判断に際して、賃貸等不動産の時価を基礎とした金額を求める必要がありますので、ここで不動産鑑定士に価格調査が求められる場合があります。

次に、不動産鑑定士に価格調査が求められる場面としては、上記総額の重要性があるため時価注記が必要となり、その時価を算定する場面が挙げられます(基準8(3)の部分)。

おわりに

以上、簡単ですが賃貸等不動産の時価開示基準の中で不動産鑑定士の価格調査が求められる場面をご紹介しましたが、より詳細に知りたい方は、以下ご参照いただくと良いでしょう。

賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準(ASBJ):https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/20190704_13.pdf

賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用指針(ASBJ):https://www.asb.or.jp/jp/wp-content/uploads/fudosan-kaiji_2.pdf

財務諸表のための価格等調査に関する実務指針(日本不動産鑑定士協会連合会):https://www.fudousan-kanteishi.or.jp/wp/wp-content/uploads/2015/06/20141126_zaihyosisin_20141126_zaihyosisin.pdf