はじめに
本件は、請求人(相続人)が被相続人(平成26年3月相続開始)から相続により取得した本件土地について、借地借家法の借地権の存する土地(貸宅地)として評価すべきとの請求人の主張に対し、税務署は借地権は存在せず、土地賃借権の存する雑種地として評価すべきとして、その評価方法が争われた事例です(公表裁決 R2.3.17)。
本件土地の評価方法以外にも複数の土地の評価方法が争点となっていますが、ここでは、本件土地の評価方法の争点に絞ってご紹介します。
事例概要
✔まず、本件土地の概要は以下の通りです(本文中の基礎事実より抜粋,下線は筆者)。
本件6土地
A 本件6土地は、別図のとおり、その南側においてf県道m線(以下「県道m線」という。)と接する南北に細長いおおむね三角形の土地である。
B K社は、建設機械及び車両等のリース業を営む法人であり、本件被相続人から本件6土地を賃借していた(以下、この賃借に係る賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。また、K社は、本件6土地の一部を同社が所有する事務所及び工場(以下、これらの建築物を「本件各建築物」という。)の敷地として使用し、それ以外の部分は、同社が所有する建設機械及び車両等の保管場所として使用していた。
C 本件各建築物について、L市平成26年度固定資産評価証明書(以下「L市平26評価証明書」という。)には要旨次の記載がある。
(A) 事務所
所在地 L市p町○-○
用途 事務所
構造 軽量鉄骨系平屋建てプレハブ型
床面積 41.91㎡
建築年月日 昭和63年9月28日
(B) 工場
所在地 L市p町○-○
用途 工場
構造 鉄骨造平屋建て
床面積 103.06㎡
建築年月日 昭和63年9月20日
✔さらに、本件土地に関する認定事実は以下の通りです(認定事実より抜粋,下線は筆者)。
(イ) 本件賃貸借契約の内容等について
本件賃貸借契約に係る契約書は、昭和53年から本件相続の開始時までの期間(昭和63年9月○日のK社設立前は、同社の設立者個人を借主として契約している。)において4回取り交わされており、当該各契約書の記載内容はそれぞれ要旨次のAないしDのとおりである。
なお、次のAないしDのいずれの契約書においても権利金については取決めがなく、実際に権利金の授受が行われたことを示す資料の存在も確認できない。
また、次のB及びCの各契約書は、いずれも同一の契約条項が当初から印刷された市販の定型書式を使用し、その空欄に手書きで文字を書き加えることにより作成されており、賃貸目的の項には「普通建物所有」と当初から印刷されているが、賃貸借の期間の項には手書きで「地主G10氏が使用の際は無条件で立退くことを約束します」と記載されている。
A 昭和53年6月1日付の土地賃貸借契約書(以下「契約書A」という。)
(A) 目的 重機保有
(B) 場所 r市s町○-○
(C) 賃貸借の期間 昭和54年5月31日までの1年間
B 昭和63年5月14日付の土地賃貸借契約書(以下「契約書B」という。)
(A) 目的 普通建物所有
(B) 場所 r市s町○-○
(C) 賃貸借の期間 記載なし(ただし、手書きで「地主G10氏が使用の際は無条件で立退くことを約束します」と記載されている。)
C 平成2年8月11日付の土地賃貸借契約書(以下「契約書C」という。)
(A) 目的 普通建物所有
(B) 場所 r市s町○-○
(C) 賃貸借の期間 記載なし(ただし、手書きで「地主G10氏が使用の際は無条件で立退くことを約束します」と記載されている。)
D 平成16年12月21日付の土地賃貸借契約書(以下「契約書D」という。)
(A) 目的 営業所
(B) 場所 r市s町○-○
(C) 賃貸借の期間等
a 5年間。ただし、期間満了の1か月前までに両者が話し合って更新することができる。
b 契約期間満了あるいは、契約解除のときは、賃借人は設備などを設置した場合は、自費でこれを撤去し土地を明け渡す期日までには、延滞なく原状に復旧の上、賃貸人に返還しなければならない。
c 賃借人は、本件6土地を明け渡すに際し、賃貸人に対し移転料その他これに類する金銭上の請求をしないものとする。
(ロ) 本件6土地の利用状況について
A 本件6土地は、本件各建築物の敷地として使用されている部分を除きK社所有のリース商品である建設機械及び車両等の保管場所として利用されている。
B 本件6土地のうち、本件各建築物の敷地として使用されているのは、本件各建築物の床面積合計約140㎡及びその周辺部分であり、当該敷地の地積が本件6土地の総地積に占める割合はおおむね2割未満である。
(ハ) 対抗要件について
本件6土地上の賃借権の設定登記及び本件各建築物の表題登記はいずれもされていない。
審判所の判断
借地借家法の借地権に該当するには、建物所有が借地使用の主たる目的であり、従たる目的の場合には該当しないと解されています。
審判所は、基礎事実及び認定事実を踏まえ建物所有が主目的といるか否か以下の通り複数の観点から総合的に検討を加え、本件賃貸借契約は賃借人(K社)のリース商品である建設機械及び車両等の保管場所を確保することを主たる目的とするものであり、K社が有する本件土地上の賃借権は、借地借家法の借地権には該当しないと判断しています(下線は筆者)。結果、請求人の主張は認められませんでした。
(イ) 上記のとおり、K社は、建設機械及び車両等のリース業を営む法人であることからすれば、リース商品である建設機械及び車両等の保管場所として使用する土地が不可欠であるから、事務所用地等に優先してリース商品を保管するための土地を確保する必要があること、また、上記のとおり、現に本件6土地の大部分はリース商品である建設機械及び車両等の保管場所として使用されており、本件各建築物の敷地は当該土地の僅かな部分を占めるにすぎないことからすると、本件賃貸借契約の主たる目的はリース商品である建設機械及び車両等の保管場所を確保することであると認められる。
(ロ) 借地権の設定に際しては、通常、権利金の授受が行われ、その消滅に当たっては土地所有者が立退料の支払を要するなどの実態があるところ、上記のとおり、契約書Aないし同Dのいずれにおいても、権利金の取決めがなく、賃貸借契約当事者間で権利金の授受が行われたことを示す資料の存在も確認できないこと、また、契約書Bないし同Dにおいては、K社が、本件被相続人が本件6土地を使用する際には無条件で立ち退く旨、あるいは、明け渡すに際して移転料等の金銭上の請求をしない旨の約定がなされていることからしても、本件賃貸借契約が建物の所有を主たる目的としたものとは認め難い。
また、上記のとおり、本件6土地の賃借権は第三者対抗要件(民法第605条《不動産賃貸借の対抗力》、借地借家法第10条《借地権の対抗力等》第1項)を備えていないことからも、本件賃貸借契約の主たる目的が建物所有であるとは認められない。
なお、上記のとおり、契約書B及び同Cには、いずれもその目的の項に「普通建物所有」との記載があるものの、当該各記載は、いずれも市販の契約書に当初から印刷されていたものと認められること、当初の契約書(契約書A)では重機保有が目的とされていたこと、また、契約書Dでも目的は建物所有ではなく「営業所」とのみ記載されていることから、当該各印刷による記載をもって本件賃貸借契約が建物の所有を主たる目的とするものに更新されたと即断することはできない。
私見とコメント
借地借家法の借地権に該当するかどうかの重要なポイントの1つである『建物所有が借地利用の主たる目的であるか否か』を検討するにあたり、審判所が複数の観点から総合的に検討を加えている点が参考になり、普段の税理士実務にも生かせると思われます。
本件を踏まえれば、以下のような事項を総合的に検討するのが有効と思われますが、特に①②の確認が漏れやすいのではないかと思います。①②は現地調査を行い、また、相続人ら関係者にヒアリングしないと正確な事実がつかめません。そもそも相続税の土地評価で現地調査を省略し、机上で資料だけ並べて評価するスタンスだと本件のように借地権の存否の判断を誤り足元をすくわれる可能性があるので注意が必要でしょう。
① 賃借人の業種・業態等から見て借地使用の主目的は何か?
② 現地の実際の使用状況はどうか?
③ 契約書に記載の目的はどうなっているか?
④ 借地権は第三者対抗要件を具備しているか?