はじめに
相続税の土地評価で誤りやすい事例として「無償返還届出書が提出されている貸宅地」についてご紹介します。
この事例自体は、大阪国税局資産評価官「資産課税関係 誤りやすい事例3-4(財産評価関係 令和2年)」(TAINS)から抜粋したものになります。
誤りやすい事例
【誤った取り扱い】
同族法人に賃貸している貸宅地(無償返還届出書が提出されている。)について、通常の借地権の価額を控除して評価した。
【正しい取り扱い】
借地権が設定されている土地について、無償返還届出書が提出されている場合の貸宅地の価額は、自用地としての価額の80%に相当する金額により評価する(相当地代通達8)。
筆者コメント
この事例だけ読むと「こんなの間違えるわけないじゃん」と思われる税理士先生も多いと思いますが、実際に相続税申告の実務で出くわした際は意外と評価ミスが多いのも事実です。
この事例の正しい取り扱いに行き着くには、①土地賃貸借契約書と②無償返還届出書の提出控えをクライアント(相続人ら)から入手する必要があります。
例えば、税理士からクライアントへの依頼資料リストの中に①土地賃貸借契約書が含まれていない場合、そもそも貸宅地の評価を漏らす可能性もあります(同族法人の株価評価の過程で借地権の存在に気づく可能性はありますが)。
また、①土地賃貸借契約書はクライアントから入手しても②無償返還届出書の提出控えの入手を失念する可能性もあります。無償返還届出書を提出した当時の顧問税理士が無償返還届出書の控えを持っているのみでクライアントに控えを渡しておらず、顧問税理士が変更しているケースもあります。クライアントで無償返還届出書について詳しい方はほぼいないでしょうから当時出したかどうかの記憶もあいまいなケースが多いです。というわけで、クライアント側も当時無償返還届出書を提出したかどうか記憶があいまいな場合、特に同族法人との土地賃貸借契約に関しては無償返還届出書の提出の有無を確認する意味で、税務署に過去提出した届出書の閲覧申請(以下リンク参照)に行くのがベストでしょう。
国税庁HP「申告書等閲覧サービスの実施について(事務運営指針)」(https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/050301/01.htm)