不動産 法人税

借地権利金の取引慣行の有無のグレーゾーン

権利金収入の認定課税、借地権の認定課税

法人税法の勉強で借地権の論点をやると、はじめのほうで必ず「権利金収入の認定課税」とか「借地権の認定課税」をやると思います。

仮に地主と借地権者ともに法人の前提であれば、借地権の設定に際して通常支払うべき借地権の対価たる権利金を借地人が地主に支払わないとそれぞれ以下の税務仕訳がおき、地主側で「権利金収入の認定課税」がおき、借地権者側で「借地権の認定課税」がおきます。

地主   : Dr 寄付金 / Cr  権利金収入

借地権者 : Dr 借地権 / Cr 受贈益

結果的に、地主は寄付金損金不算入借地人は受贈益計上漏れで両社で課税があり得ます※。

※ここではグループ法人税税制、地主側での土地簿価一部損金算入の話は割愛します。

この借地権設定時の入口課税を防ぐには、ちゃんと権利金を支払うか、相当の地代を支払うか、無償返還届出書を提出するかの方法があるのですが、そもそも入口課税の大前提としてその土地のある地域が借地権を設定した際に権利金を支払うような慣行があることになります。

つまり、権利金の取引慣行がなければそもそも入口課税はおきません。

借地権利金の取引慣行の有無のグレーゾーン

そこで問題になるのが、この権利金慣行の有無の判断です。

実務上は、国税局長が定める財産評価基準書における借地権割合30%未満のものが表示されていないのでそこは権利金の取引慣行無しという判断がなされていると思いますし、そう解説している本も複数あります※。

※財産評価基準書における借地権割合って何?という方もいるかと思いますが、いわゆる路線価図等に記載のある借地権割合のことです(http://www.rosenka.nta.go.jp/docs/ref_prcf.htm

ですが、裁決や裁判例などをみていると、例えば財産評価基準書の借地権割合40%の地域について納税者が権利金慣行無しと主張して争っているケースが多々あります。

こんな時、審判所や裁判所は、財産評価基準書で借地権割合30%以上なので権利金の取引慣行ありとはせずに(もちろんそれも1つの根拠にはしてますが)、課税時期に近い年で近隣地域の取引実例を複数持ってきてそれで権利金慣行ありと判断しているケースが多いです。

取引実例とは例えば以下のようなものです。

✔借地権設定時に借地人から地主に権利金が支払われている取引実例

✔借地権返還時に地主から借地人に立退料が支払われている取引実例

✔借地権が設定された土地の地主が底地価額で売却している取引実例

あと、無償返還届出書が税務署に提出されている実例が複数あるということも権利金の取引慣行があるということの1つの根拠にされている裁判例もあります。

「権利金慣行あり⇒入口課税あり⇒それを防ぐために無償返還届出書提出」という流れなので、無償返還届出書が提出されている実例が複数あるということは逆にたどっていくと権利金の取引慣行があるというロジックとです。

私見

ただ、無償返還届出書の提出件数なんて税務署側でしかカウントできないし、納税者からしたらそんなの知らないよと言いたくなりますよね。

私見としては、直近の近隣での取引事例や無償返還届出書の提出件数は納税者側で入手困難なので、やはり実務上は財産評価基準書の借地権割合30%以上かどうかで見ていくことになると思われます。

なお、私自身が過去に見てきた資料では、東京や神奈川などの地域(首都圏)では、財産評価基準書の借地権割合と実際の取引事例から求めた割合の平均に大きな乖離が無いが、地方ほど乖離が大きいというものもありましたので、地方では、財産評価基準書の借地権割合30%以上であっても、不動産鑑定評価などを行い実際の借地権割合を追い求めるのもありかとも思います。