はじめに
本件は、原告(相続人)が被相続人(平成19年11月19日相続開始)から相続により取得した土地のうち、共同住宅の敷地に隣接する通路部分について、評価通達24の『私道』に該当するか否かが争われた事例です(広島地判 H25.6.26 TAINS:Z263-12240)(最高裁/上告不受理/確定)。
事例概要
評価通達24の『私道』に該当するか否かが争われている共同住宅の敷地に隣接する通路部分は、以下図表中の緑色部分(本件E区画、本件F区画、本件G区画、本件H区画)です。
図表 土地及び建物の状況図(出典:TAINS:Z263-12240 別紙3)(緑色は筆者)
土地の利用状況について前提事実より以下引用させていただきます。
本件土地1ないし同3の各土地の配置は、別紙3土地及び建物の状況図のとおりである。本件土地1及び同2は、南側で市道に接し、また本件土地1及び同2の各土地のうち、西側に位置する本件土地2は、幅60cmの細長い土地である本件土地3を間に挟んで市道に面している。他方、本件土地1及び同2は、その北側が宅地に接し、また両土地のうち東側に位置する本件土地1は、東側が宅地に接しているが、その接している側は、いずれもブロック塀で仕切られている。
そして、本件土地1及び同2は、別紙3土地及び建物の状況図のとおり、コンクリートブロック塀に金属製フェンスを載置した塀によって、AないしH、J及びKの各区画に分けられている。
本件AないしD区画の各土地は、同土地上の建物敷地部分とその西側部分で高低差があり、建物の西面によって区切られており、西側部分はその隣接する本件土地3と一体となって駐車場とされている。本件各通路部分は、上記各建物の西面を結んで仮想される直線部分より西側部分が西から東に上り斜面になっており、それより東側部分は上記各建物の敷地部分と同じ高さになっている。本件J区画は、南側市道と同じ高さの土地で駐車場とされており、その北側に接する本件H区画と塀で区切られるとともに高低差がある。
本件AないしD区画の各土地上の本件各共同住宅は、いずれも1棟4戸からなる共同住宅で、その平面形状は別紙3土地及び建物の状況図に図示したとおりであり、南側の凹部に1階の2戸の玄関があり、また2階に上がる階段部分も同所にあって、2階の各居室への玄関部分も同所にある。なお、本件A区画と本件E区画、本件B区画と本件F区画、本件C区画と本件G区画、本件D区画と本件H区画を、それぞれ区切る塀は、各共同住宅の上記凹部に面する部分が開放されている。
さらに、被告(国・税務署)の主張より、以下の点が読み取れます。
✔本件各通路部分は、建築基準法42条1項5号に定める道路の位置の指定を受けていないこと。
✔本件各共同住宅の建築確認申請の際、本件各通路部分が本件各共同住宅の敷地として申請されていること。
✔本件各通路部分の地目は、登記記録上、宅地とされており、固定資産課税台帳登録証明書上も登記地目及び現況地目いずれも宅地とされ、住宅用地として固定資産税が課税されていること。
裁判所の判断
評価通達24で私道について減額評価される趣旨について、裁判所は以下の通り述べています(下線は筆者)。
ところで法令中にも評価通達中にも「私道」という用語を直接定義した規定はないが、一般的に「私道」とは「公道」の対義語として、道路として利用されている私有地を指していう用語であるところ、(中略)、評価通達24の前段にいう「私道」については、「100分の30に相当する価額によって評価する」として、減額評価するにとどめている。したがって、ここで想定されている「私道」とは、後段で想定した不特定多数の者が利用する私道とは異なるものであり、具体的には、多数とはいえ、特定の者による道路としての利用の負担だけが想定されているものと解される。そして、そのような私道の場合、第三者との関係における道路としての利用関係の負担が問題となって客観的な交換価額を減じさせられるが、私有物として、所有者の意思に基づく処分の可能性は残されているといえるし、また私道に沿接する土地が私道所有者と同一人の所有に帰属することになると、現在の私道は容易にその敷地内に包含されて、私道ではなくなってしまうことになることから、評価価額がないとするのではなく減額評価するにとどめているものと考えられる。すなわち、ここでいう「私道」とは、特定多数といえる、当該私道部分の隣接地の住民等だけが利用するような、典型的には袋小路(行き止まり道路)となった私道を想定しているということができる。
以上、要するに、評価通達24が、宅地が「私道」の用に供されている場合に減額評価すべきとした理由は、通り抜け道であれ、袋小路であれ、「私道」であることによって、第三者の利用を容認しなければならない負担が生じることを前提に、そのことが宅地の利用を制限し、ひいては当該宅地の客観的な交換価額を減じるという実情を、時価評価の面で反映しようとしたものということができる。
また、評価通達26で貸家建付地について減額評価される趣旨について、裁判所は以下の通り述べています。
このように貸家建付地について減額評価されている趣旨は、貸家の借家人は、貸家に対する権利を有するほか、その貸家の敷地についても、貸家の賃借権に基づいて、貸家の利用の範囲内で、ある程度の支配権を有しており、その裏返しとして、貸家の敷地となった宅地の所有者には、その範囲において宅地の利用の制限が生じていることにあると解される。
以上を踏まえ、裁判所は、本件各通路部分について、以下の通り検討の上、評価通達24の『私道』には該当しないと判断しています(下線は筆者)。
そこで、以上を前提に本件各通路部分について評価通達24にいう「私道」として減額評価すべきかについて検討すると、本件土地1及び同2並びに隣接する本件土地3及び同土地上の本件各共同住宅の位置関係は、上記第2の2(3)のとおりであり、うち本件各通路部分は、(中略)、その客観的態様は一般的な袋小路(行き止まり道路)と変わりがないものであるといえる。
そうすると、本件各通路部分は、本件各共同住宅の居住者及びその関係者という特定多数の者が利用している点で評価通達24の前段にいう私道であるかのごとくである。
しかし、本件各土地及び同土地上の本件各共同住宅は、同一所有者が所有して本件各共同住宅の居住者に貸家として賃貸されている物件であり、ここで特定多数の者とされる本件各共同住宅の居住者及びその関係者は、賃貸人である土地所有者にとっては賃借人及びその関係者であるから、本件各土地の所有者が、本件各共同住宅の居住者及び関係者に本件各通路部分を利用させている関係は、賃貸人が、賃貸借契約に伴う負担として、賃借人及びその関係者が通路として利用することを容認している関係にすぎないものである。
そうすると、本件各通路部分は、袋小路となった私道の外観を有しているけれども、本件各通路部分に生じている利用の負担は、評価通達24が想定している第三者に対する関係での「私道」としての負担とは明らかに異なっており、むしろ所有地上に貸家を所有し、賃借人に対してその貸家を賃貸した場合において、その敷地となった貸家建付地について賃借人に対して生じる利用負担と同じと考えることができるものである(本件においては、本件各共同住宅が1棟4軒の貸家であるため負担が生じる相手が多数となっており、また本件各通路部分は、本件各共同住宅の敷地部分とは明確に区別され得る土地であるという事情があるものの、本件各通路部分は、その北側で接する本件各共同住宅の敷地部分の通路としてのみ使用されているから、土地所有権への負担という観点から見ると、一軒家の貸家の敷地と、その敷地に対する通路としてのみ使用されている土地との関係と異なるわけではない。)。
したがって、そのような利用関係による負担があるにすぎない道路をもって評価通達24が想定した「私道」ということはできないのであり、その賃借人に対する利用関係についての負担については、評価通達26による貸家建付地としての評価によってなされるべきであって、それに尽きるというべきである(なお、貸家建付地内であっても、私道であれば、評価通達26に加え、評価通達24により二重に減額評価することは妨げられないが、二重に減額評価するためには、当然のことながら、それぞれの評価通達の規定の適用要件を満たす必要がある。本件各通路は、上記説示のとおり、評価通達24にいう「私道」とは認められないことから、その減額評価をしないのであって、評価通達26により貸家建付地として減額評価することから、評価通達24による減額評価が排斥されているわけではない。)。
なお、あるべき評価方法としては、本件各共同住宅の敷地と本件各通路部分につき一体利用されているためそれぞれ一画地の宅地4件(A区画+E区画、B区画+F区画、C区画+G区画、D区画+H区画)として評価し、評価通達26(貸家建付地の評価)を適用することとされています。
私見とコメント
裁判所の判断は、要約すると、本件各通路部分と本件各共同住宅の敷地の所有者が同一であり、本件各通路部分は、本件各共同住宅の敷地への通路として専用使用されているため、本件各通路部分は評価通達24の『私道』とはならず、本件各共同住宅の敷地部分と併せて貸家建付地として評価するというものです。
これは、国税庁HP質疑応答事例『私道の用に供されている宅地の評価』(2)専用利用している路地状敷地について私道として評価しないことと同じ理由になります。専用利用している路地状敷地が評価通達24の『私道』に該当しない理由については以下の通り解されています。
次のようにA部分とB部分の所有者が同一であり、A部分は、B部分への通路として専用使用されている場合には、A部分は私道とはならず、B部分と併せて自用地として評価することになります。
私道を自用地評価額の100分の30に相当する金額によって評価することとしているのは、その私道が限られた範囲であっても所有者以外の者の通行の用に供されているため、その使用収益に一定の制約があることを評価上しんしゃくするものであって、専ら自己の通行の用に供する宅地についてまで評価減をするものではありません。
出典:吉瀬唯史編『令和4年版 土地評価の実務』(大蔵財務協会、237-238頁)
ただし、本件は、敷地部分の建物が土地所有者の自宅ではなく共同住宅(貸家)であり、通路部分の利用者は土地所有者以外の第三者(共同住宅の居住者及びその関係者)ですので、上記専用使用されている路地状敷地の取扱いとは異なり、通路部分は特定多数の者の通行の用に供される『私道』に該当するのではないかとの疑問が生じます。実際に裁判所も『本件各通路部分は、本件各共同住宅の居住者及びその関係者という特定多数の者が利用している点で評価通達24の前段にいう私道であるかのごとくである。』と述べています。
これに対して、裁判所は、『ここで特定多数の者とされる本件各共同住宅の居住者及びその関係者は、賃貸人である土地所有者にとっては賃借人及びその関係者であるから、本件各土地の所有者が、本件各共同住宅の居住者及び関係者に本件各通路部分を利用させている関係は、賃貸人が、賃貸借契約に伴う負担として、賃借人及びその関係者が通路として利用することを容認している関係にすぎないものである。』と述べており、本件各通路部分に存する負担は、特定の者による道路としての利用の負担ではなく、あくまでも隣接する共同住宅1棟に係る建物賃貸借契約に伴う負担の範囲内とされています。
また、本件とは別の事例で、インターロッキング舗装されている歩道状空地について評価通達24の『私道』に該当するか否か争われた有名な事例があります(最判 H29.2.28 TAINS:Z267-12984)。
この事例では、最高裁において、評価通達24の『私道』に該当するか否かの判断基準について以下の通り述べられています(下線は原文のまま)。
相続税に係る財産の評価において、私道の用に供されている宅地につき客観的交換価値が低下するものとして減額されるべき場合を、建築基準法等の法令によって建築制限や私道の変更等の制限などの制約が課されている場合に限定する理由はなく、そのような宅地の相続税に係る財産の評価における減額の要否及び程度は、私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約の有無のみならず、当該宅地の位置関係、形状等や道路としての利用状況、これらを踏まえた道路以外の用途への転用の難易等に照らし、当該宅地の客観的交換価値に低下が認められるか否か、また、その低下がどの程度かを考慮して決定する必要があるというべきである。
この判断基準を踏まえて本件各通路部分について検討してみます。
本件各通路部分は建築基準法上の道路(42条1項5号など)ではないため、私道としての利用に関する建築基準法等の法令上の制約はありませんが、だからといって直ちに『私道』に該当しないと判断すべきではなく、判断基準下線部を考慮して判断する必要があります。
そうすると、本件各通路部分は、その位置関係、形状等や道路としての利用状況からみて一般的な袋小路(行き止まり道路)と変わりがなく、共同住宅の居住者及び関係者の通行の用に供されているものの、土地所有者による道路以外の用途への転用を困難たらしめる事情は存在せず、道路以外の用途への転用は容易であると推察されます。実際、本件各共同住宅の建築確認申請上も、本件各通路部分は本件各共同住宅の敷地として申請されており、接道義務は西側市道で満たしているため、本件各通路部分を区切るフェンスを取壊して敷地と一体化しても何ら問題ないと思われます。
したがって、上記判断基準からも、本件各通路部分は、評価通達24の『私道』には該当しないと考えられます。