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配偶者居住権の成立要件とその留意点

はじめに

平成30年の民法改正により新設された配偶者居住権が、令和2年4月1日より施行されています。

今回は、民法で定める配偶者居住権の成立要件とその留意点について解説していこうと思います。

なお、私自身は税理士として今後相続税関連業務で留意が必要になってくるため配偶者居住権の民法条文を読んでいますが、弁護士ではありませんので、あくまでも税理士目線で民法を読んだうえでのお話となります(ですので一部私見も含みますのでご留意ください)。

民法1028条(配偶者居住権)の成立要件

まず、民法1028条(配偶者居住権)の条文をそのまま以下に掲載します(①②③の太字は筆者加筆)。

(配偶者居住権)
第1028条 ①被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、②被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、③次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。④ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
一 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
二 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。

配偶者居住権の成立要件は①②③の部分ですが、④に該当すると成立しないので④の理解も重要です。

要件①について、まず被相続人の配偶者である必要があります。例えば、内縁関係や同姓のパートナーシップ関係では要件①を満たしませんので留意が必要です。

要件②について、条文上は被相続人との同居までは要件とされていません。これは例えば、被相続人が老人ホーム等に入居しており、配偶者が一人で居宅に住んでいる場合などもあり得るためです。ただし、被相続人所有の建物に居住している必要がありますので、配偶者が被相続人と別居して第三者所有の賃貸アパート等に住んでいた場合などは要件②を満たしませんので留意が必要です。

要件③について、条文上は、遺産分割のケース(1号)と遺贈のケース(2号)の2つが規定されています。このうち遺贈には死因贈与も含まれます(民法554条)。ただし、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」との遺言(例えば、配偶者居住権を〇〇に相続させると遺言に書いた場合)はどうでしょうか。いわゆる「相続させる」との遺言については遺贈と解する見解と遺産分割方法の指定と解する見解がありますが、判例が遺産分割方法の指定としていることから遺贈ではないと解すると「相続させる」との遺言では要件②は満たさないことになります。もちろん遺贈と解する解釈の余地はあり、ここは弁護士先生の領域かもしれませんが、個人的には民法条文通りに従うならば「遺贈」という表現で遺言を書いた方が良いと考えています。

④について、例えば、被相続人(父)と長男が建物を共有していたような場合に配偶者居住権を成立させると長男の共有持分が制約を受けることになるので配偶者居住権は成立しません。建物の権利関係にも留意が必要です。

おわりに

配偶者居住権は、具体的にどういう場面で必要となってくるのか今一つ見えてこない部分が多いといわれています。例えば、配偶者と他の相続人(息子、娘)が仲がいい場合、あえて配偶者居住権を設定しなくても居宅自体を配偶者が相続すれば済む話です。

民法的には、配偶者と他の相続人が不仲な場合を想定して配偶者居住権という制度を新たに設けたのかなと個人的には思っています。

また、相続税的に見れは配偶者居住権を設定することで配偶者死亡の二次相続までトータルで見た時の相続税が節税されることから配偶者居住権は節税に使えるという話もありますが、逆に課税を受けるリスクもありますので単に相続税の節税目的だけで配偶者居住権を設定するのは慎重になった方が良いと思います。