役員退職給与に関して例えば、中小企業では、役員退職慰労金規定がなくて創業者社長がやめるときになってはじめて規定の準備をするなんてこともあるでしょうし、既に規定をしっかり定めている会社もあるでしょう。
税務上の論点としては、役員退職給与のうち不相当に高額な部分が損金不算入となるので、特にその金額の大きさや算定式に注目が集まります。
功績倍率法とは
役員退職給与の算定式としてよく用いられているのが「功績倍率法」という方法です。
「功績倍率法」という用語は、平成29年6月30日付課法2-17ほか1課共同「法人税基本通達等の一部改正に ついて」(法令解釈通達)による主な改正点で新設された以下通達中に登場してます(赤字部分は筆者加筆)。
(業績連動給与に該当しない退職給与) 9-2-27 の 2
いわゆる功績倍率法に基づいて支給する退職給与は、法第 34 条 第5項((業績連動給与)) に規定する業績連動給与に該当しないのであるから、同 条第1項((役員給与の損金不算入)) の規定の適用はないことに留意する。
(注) 本文の功績倍率法とは、役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法をいう。
出典:法人税法基本通達
「功績倍率法」の算定式(基本形)は以下の通りです。
役員退職給与=最終月額報酬×役員勤続年数×功績倍率
過去の裁決事例や裁判例をみると、役員退職給与が不相当に高額か否かで争われているものが多く存在し、その争点のほとんどが「功績倍率」に関するものです。
ちまたではよく功績倍率3.0倍が上限なんて言われていますが、裁決事例や裁判例では、同業類似法人の功績倍率を平均した平均功績倍率が用いられることが多いです。
同業類似法人の抽出数が少ないとか何らかの問題がある場合は、類似法人の最高功績倍率を用いられる場合もあります。
そして、同業類似法人の抽出に関しては税務署側のデータが採用されるため、そもそも納税者側では税務署側と同じデータが手に入らないという問題もあります。
ということで、この功績倍率は法人税のグレーゾーンの1つとなってます。
ただし、今回はこの功績倍率についてではなく、功績倍率法の算定式の類型を見ていこうと思います。
功績倍率法の算定式の類型
功績倍率法の算定式(基本形)は上記に示した通りですが、この基本形以外にいくつかの類型が存在します。類型の中でも個人的によく見かけるのが以下の算定式です。
役員退職給与=Σ(役位別最終月額報酬×役位別勤続年数×役位別功績倍率)
例えば、退職する役員が、平取締役2年(最終月額70万円)、常務取締役2年(最終月額80万円)、専務取締役2年(最終月額90万円)、代表取締役6年(100万円)という経歴であった場合、以下の合計額が役員退職給与となります。
平取締役分:70万円×2年×平取締役の功績倍率(1.0)
常務取締役分:80万円×2年×常務取締役の功績倍率(1.5)
専務取締役分:90万円×2年×専務取締役の功績倍率(2.0)
代表取締役分:100万円×6年×代表取締役の功績倍率(3.0)
ちなみに、功績倍率は会社が役員退職慰労金規定で役位別に定めておく必要があります(上記の功績倍率はあくまでも私が仮で設定したものですので、これが絶対というものではありません)。
この算定式の特徴は、役位別に功績倍率法を適用してそれを合算する点にあり、功績倍率法(基本形)よりも役員退職給与の金額は小さく算定されるのが一般的です。
そして、この役位別功績倍率法を使う場合の留意点としては、役位別最終月額報酬と役位別勤続年数をしっかり自社で把握できるかが意外とポイントになります。
というのも、功績倍率はどの程度までOKなのかグレーゾーンではありますが、役員退職慰労金規程で自社で定めますのでその数値は当然に把握することはできますが、役位別最終月額報酬と役位別勤続年数は役員の勤続状況をしっかり履歴管理していないと把握できなくなります。特に創業者社長など、勤続年数がかなり長い方だと、平取締役が何年で平取締役時代の最終月額報酬がいくらだったか?なんてかなり昔の帳簿をひっくり返さないと把握できない、そしてそんな昔の帳簿はないなんてことになります。
おわりに
今回は、功績倍率法の基本形とその類型である役位別功績倍率法についてご紹介しました。
特に、役位別功績倍率法を新規に採用する場合、今現職の役員について、過去役員に初めて就任した時からの役位別の勤続年数や最終月額報酬がしっかり把握できるか確認しましょう。
それができないのに役位別功績倍率法を採用したら、役員退職給与の金額がそもそも計算できない事態が発生し、不相当に高額か否かを議論する以前の問題になってしまいます。