はじめに
取引相場のない株式の財産評価における純資産価額の計算において、貸借対照表に計上されているリース資産及びリース債務をどうるすか?
具体的には、リース資産及びリース債務をそもそも評価する必要があるかどうか。評価するとしたらどうするかが問題となります。
参考となる裁決事例
まず、リース資産及びリース債務の評価方法については、財産評価基本通達に定めがありません。
財産評価基本通達に定めがないので、リース資産及びリース債務を評価する必要はないというのは説得力がありません。それは、財産評価基本通達5に「この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する。」と定めがあるためです。
ではどうするか。
参考となる裁決事例(平成20年4月22日非公開裁決 TAINSコード:F0-3-225)があります。
この事例は、未払リース料(リース債務)が債務控除の対象となるかが争点とされており、株価評価の事例ではありませんが、審判所の判断部分で参考となる文章があります。少し長いですが、そのまま以下に引用します(赤字部分は筆者加筆)。
請求人らは、本件契約のようなファイナンス・リース契約は物件の購入資金を融資してもらう消費貸借契約であり、所得税及び法人税において、リース物件の引渡しの時に当該リース物件の売買があったものとして計算することとされ、契約時に全額が債務として認識されるのであるから、本件未払金残高は、本件相続開始日に現に存する本件被相続人の債務である旨、また、本件被相続人が本件物件を売買により取得したとして、本件発酵舎並びに異議決定において相続財産ではないとして減額された本件発酵舎に係る造成工事の費用相当額、同追加工事の費用相当額及び本件発酵機を財産の価額に計上すべきである旨主張する。
しかしながら、ファイナンス・リース契約については、課税の公平の観点から、所得税法施行令及び法人税法施行令の規定により、リース物件の売買があったものと法律上擬制して所得税額及び法人税額を計算することとされているところ、これらの規定は、本件契約が賃貸借契約であるという私法上の法律関係に影響を及ぼすものではなく、本件被相続人が本件物件を売買により取得したとは認められない。また、相続税は相続によって取得した財産について課されるものであるところ、本件物件が賃借物件である以上相続財産に該当する余地はなく、そして、本件発酵舎に係る造成工事費用相当額は、造成したことによりその設置されている士地の価値を増加させるものであり、その土地の評価額に反映済みであるから、これもまた相続財産に該当することはありえない。したがって、これらの点に関する請求人らの主張を採用することはできない。
出典:平成20年4月22日非公開裁決 TAINSコード:F0-3-225 審判所の判断部分より抜粋
すなわち、法人税や所得税の取扱いでファイナンス・リース取引は売買取引とみなして計算することとされていても、それは相続税の取扱いには準用できないということです。
相続税は、経済的実態(売買取引)ではなく法形式(賃貸借取引)を重視するという結論です。
よって、この事例では未払リース料(リース債務)は債務控除不可とされています。
株価評価におけるリース資産、リース債務の財産評価はどうするか?(私見)
私自身は、上記の裁決事例を準用して、株価評価におけるリース資産及びリース債務の評価は不要と解しています。
上記裁決事例を踏まえると、会計上(法人税法上)貸借対照表に資産計上されているリース資産には相続税における財産性がなく、負債計上されているリース債務には債務性がないと考えられるためです。
ちなみに、法人税法上の未決済デリバティブ資産・負債についてて株価評価上どう取り扱うかについては、国税庁の質疑応答事例があります(金利スワップ(デリバティブ)の純資産価額計算上の取扱い)。
こちらの質疑応答事例からも、法人税法上は資産・負債として認識するものであっても、相続税法上は財産・債務として取り扱わないものがあるというのを再確認させられる事例です。