会計や税務の世界には似て非なるワードがたくさんありますが、今回はその代表例の1つである「減価償却」と「減損処理」のお話を少ししたいと思います。
試験対策からみた異同点
まず、減価償却と減損処理の異同点について、税理士試験の財務諸表論をはじめとした会計学の記述問題が出題される試験では試験対策として押さえておく必要があります。
異同点の切り口はいくつかあると思いますが、私は最低限以下を押さえるようにしています。
共通点 | ともに取得原価基準の下で実施される帳簿価額の減額処理である。 |
相違点 | (目的の相違) 減価償却の目的は適正な期間損益計算であるが、減損処理の目的は、事業用資産の過大な帳簿価額を減額して将来に損失を繰り延べないことである。 (実施するタイミングの相違) 減価償却は所定の減価償却方法に基づき、毎期規則的・計画的に実施するが、減損処理は収益性の低下に基づく減損損失を認識する要件を満たしたときに臨時的に実施される。 |
実務からみた異同点
さて、試験対策では上記のような内容を論じられればOKですが、実務からみると以下のような相違点があります。
相違点 | (適用対象の違い) 減価償却は法人、個人問わず固定資産を使用して事業を営んでいる場合は必ず計上される費用項目である。 減損損失は、主に会計基準の適用が必要とされる会社(上場企業等)が適用しているのみで、非上場の中小企業では適用していないところがほとんど。 (難易度の違い) 減価償却は、耐用年数が何年かさえ決まればあとは固定資産管理ソフトが毎期自動計算してくれる。 減損処理は、グループピング、減損の兆候の判定、減損損失の認識の判定、減損損失の測定の手順で検討する必要があり、将来キャッシュフローや割引率の見積りを要し、難易度が高い。 |
以上のような相違点から、非上場の中小企業では減損処理を行っていない場合がほとんどです。
ですが、非上場の中小企業でも「中小企業の会計に関する指針」において減損処理を行うための方法が示されています。
36.有形固定資産及び無形固定資産の減損
固定資産について予測することができない減損が生じたとき又は減損損失を認識すべきときは、その時の取得原価から相当の減額をしなければならない。減損損失の認識及びその額の算定に当たっては、減損会計基準の適用による技術的困難性等を勘案し、本指針では、資産の使用状況に大幅な変更があった場合に、減損の可能性について検討することとする。具体的には、固定資産としての機能を有していても次の①②のいずれかに該当し、かつ、時価が著しく下落している場合には減損損失を認識する。
① 将来使用の見込みが客観的にないこと
資産が相当期間遊休状態にあれば、通常、将来使用の見込みがないことと
判断される。
② 固定資産の用途を転用したが採算が見込めないこと
出典:中小企業の会計に関する指針
赤字部分で中小企業がガチで会計基準を適用することは厳しいだろうから適用要件の判定方法を会計基準よりも簡便化してくれています。
会計上は上記のように適用要件の判定方法が簡便化されていますので、中小企業でも減損損失を計上することは可能は可能ですが、税務上、減損損失は法人税の別表4で加算・留保処理する必要があり、その後減算・留保処理していく必要があります。税務上手間がかかるのであまり実施されていないという現実もあると思います。
おわりに
税理士試験では財務諸表論や簿記論で減損会計を理論と計算両面から勉強するのに実務では非上場の中小企業がクライアントが多いので合格したらすっかり減損会計の知識が無くなってしまうなんてことも多いかと思います。
上場企業や会社法監査を受けているような非上場企業がクライアントにいない場合はそれも仕方ないのかもしれませんが、たとえ中小企業がクライアントでも減損会計というものの概要をお伝えしたりすることで適用に前向きなところもあるかもしれません。
試験勉強で得た知識を生かすも殺すも自分次第です。