株価評価 相続税

非上場株式の通達評価額(類似業種比準価額)が、M&Aの基本合意価格、譲渡価格、及び、税務署依頼の株価算定報告額と著しくかい離しているため、評価通達6項が適用された事例(R2.7.8非公開裁決)

はじめに

本件は、請求人(納税者・相続人)が、相続により取得した取引相場のない株式(A社株式)を通達評価額(大会社なので類似業種比準価額)により評価して相続税の申告をしたところ、原処分庁(税務署)が、当該類似業種比準価額により評価することが著しく不適当と認められるとして、評価通達6項を適用し、国税庁長官の指示を受けて評価した価額(K算定報告額)により相続税の更正処分等を行ったことに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案です(R2.7.8非公開裁決 TAINS:F0-3-692)。

事例概要

1.時系列

被相続人(A社の代表取締役、かつ、筆頭株主)は、少なくとも相続開始の約半年前にはA社株式のM&Aに向けて動き出しており、時系列表の形で基礎事実を整理すれば以下の通りです(表出典:基礎事実基に筆者作成)。

2.各手株価

A社株式に関する通達評価額、基本合意価格、株式譲渡価格、K社算定報告額の関係は以下の通りです。

請求人主張の通達評価額:@8,186円/株(大会社のため、類似業種比準価額による)

基本合意価格(=株式譲渡価格):@105,068円/株

原処分庁主張のK社算定報告額:@80,373円/株(税務署の依頼によりK社により算定された株価)

K社株価算定報告書の要旨はTAINSに掲載されているのですが、求める株式価値の定義として「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額。ただし、買手が享受するシナジー効果は含まないスタンドアローン価額とした。」とあり、特定の買主(B社)からみたシナジー効果は考慮されていません。具体的な評価方針は、DCF法、株価倍率法、及び、取引事例法によりそれぞれ株価を算出し、DCF法を上回る部分は同業を営む買手が享受するシナジー効果とみなし、株式価値は、DCF法とマーケット・アプローチの分析結果の重なる部分の平均値で算定されています。また、K社株価算定報告書では、以下の通り、非流動性ディスカウントが考慮されていない点が特徴として挙げられます。

非流動性ディスカウントについて
 本件相続株式が経営支配権を有すること、また、本件相続株式と相続人Mの所有する株式を合わせると議決権の過半数になり、定款に定める株式譲渡制限に係る承認が実質的にできる状況であることを考慮し、非流動性ディスカウントは考慮しないこととした。

審判所の判断

審判所は、評価通達6項が適用される「特別の事情」の有無について検討した上で、原処分庁と同じく「特別の事情」あり(評価通達6項の適用は適法)と判断しています。

検討部分から当てはめに至る部分は以下の通りです。

①通達評価額と基本合意価格、株式譲渡価格、及び、K社算定報告額とのかい離の程度

1株当たりの価額で比較すると、本件相続株式通達評価額は、本件算定報告額の約10%にとどまり、また、本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格の約8%にとどまり、本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格が本件相続株式通達評価額からかい離する程度は、本件算定報告額よりも更に大きいものであった。

②基本合意価格、株式譲渡価格の妥当性

本件株式譲渡契約及び本件基本合意について、市場価格と比較して特別に高額又は低額な価額で合意が行われた旨をうかがわせる事情等は見当たらない。

③K社算定報告額の妥当性

本件算定報告の算定方法についてみると、A社は、清算を予定しておらず、継続企業であるところ、インカム・アプローチは、評価対象会社から将来期待することができる経済的利益を当該利益の変動リスク等を反映した割引率により現在価値に割り引き、株主等価値を算定する方式であり、その代表的手法がDCF法であるから、本件算定報告が株主価値の算定方法としてDCF法を採用したことは相当である。
さらに、本件算定報告が、マーケット・アプローチとしての株価倍率法及び取引事例法による分析において、それぞれ、業界、事業内容、事業規模、収益性などを基準として企業及び取引事例を抽出したことに不適切な点はなく、当該算定方法を用いることは相当である。
そして、上記のDCF法、株価倍率法及び取引事例法のいずれの算定過程にも不合理な点はない上、幅をもって算出されたそれぞれの評価結果の重複等を考慮しつつ、本件算定報告額をもって本件相続株式の価額と結論付けたことも相当である。
これらのことからすると、本件算定報告は、適正に行われたものであり合理性が認められる。

④当てはめ部分

以上のとおり、本件相続株式通達評価額は、本件算定報告額並びに本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格と著しくかい離しており、本件相続開始時における本件相続株式の客観的な交換価値を示しているものとみることはできず、本件相続開始時における本件相続株式の客観的な交換価値を算定するにつき、評価通達の定める評価方法が合理性を有するものとみることはできない。
そうすると、本件相続における本件相続株式については、評価通達の定める評価方法を形式的に全ての納税者に係る全ての財産の価額の評価において用いるという形式的な平等を貫くと、かえって租税負担の実質的な公平を著しく害することが明らかというべきであり、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価すべき特別な事情がある。
そして、本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格をもって、主観的事情を捨象した客観的な取引価格ということはできないのに対し、本件算定報告は、上記のとおり、適正に行われたものであり合理性があることから、本件相続株式の相続税法第22条に規定する時価は、本件算定報告額であると認められる。
したがって、評価通達6の適用は適法である。

本件では、本件通達評価額と、本件算定報告額並びに本件株式譲渡価格及び本件基本合意価格とが著しくかい離している点が特別の事情として認められてしまっています。これは以下請求人の主張に対する審判所の判断部分からも読み取れます。

請求人は、本件相続株式通達評価額と本件基本合意価格との間にかい離があることをもって、評価通達の定める評価方法によらないことが正当と是認される特別な事情があるとはいえない旨主張する。
しかしながら、上記のとおり、本件相続株式通達評価額と本件基本合意価格との間に著しいかい離があることは、評価通達の定める評価方法以外の評価方法によって評価すべき特別な事情となる。したがって、請求人の主張には理由がない。

私見とコメント

個人的には、審判所の判断の検討部分や当てはめにつき全体的に物足りない感が残ったままです。

上記検討①(通達評価額と基本合意価格、株式譲渡価格、及び、K社算定報告額とのかい離の程度)については、単に各価格の大小関係を比較しているにとどまります。

上記検討②(基本合意価格、株式譲渡価格の妥当性)については、さらっと2行で終わっており、何をもって「市場価格と比較して特別に高額又は低額な価額で合意が行われた旨をうかがわせる事情等は見当たらない」と判断したのかの具体的根拠が記載されていません。

上記検討③(K社算定報告額の妥当性)については、単にK社算定報告書を単に要約しただけのような記載になっており、個人的にはもう少し各手法の採用数値や各種比率の妥当性、非流動性ディスカウントの必要性等を検討した旨の記載が欲しかったです。審判所がK社とは別の株価算定会社に依頼して、K社株価算定報告書の妥当性を検討する方法もあったのではないかと思われます。

最後に当てはめ④について。

通達評価額と他の合理的な評価額とのかい離と特別の事情の関係について、今話題の最高裁 令和4年4月19日判決(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/105/091105_hanrei.pdf)では、以下の通り述べられています。

これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。

出典:最高裁 令和4年4月19日判決

また、本件請求人も、平成20年裁決を根拠に、本件通達評価額と本件基本合意価格との間にかい離があることをもって特別の事情があるとは言えないと主張しています。この平成20年裁決と本件との関係について審判所の判断では特にコメントされずスルーされてしまっており出所が不明確ですが、おそらくH20.3.28公表裁決(https://www.kfs.go.jp/service/JP/75/30/index.html)のことを指していると思われます。当該裁決では、都市計画道路の道路用地について、評価通達6項を適用し、通達評価額によらず買収予定価額をもって時価とすべきか否かが争われていますが、以下の通り、当該裁決の審判所は通達評価額と買収予定価額のかい離のみをもって特別の事情があるとは言えないと判断しています。

また、原処分庁は、上記Aの(B)のとおり、評価基本通達により定められた評価方式で評価した場合の価額が本件買収予定価額に比べ著しく低額となるために評価基本通達6に定める特別の事情がある場合に当たる旨も主張するが、仮に本件買収予定価額が時価を表しているものとするならば、評価しようとするその土地の地価公示価格レベル水準の価格の80%相当額となるように、評価基本通達に基づき各国税局長が定めた財産評価基準書(以下「財産評価基準書」という。)に路線価や倍率が定められていることが周知の事実であることに照らせば、その定められた路線価や倍率の合理性が問われることはあっても、評価基本通達により定められた評価方式で評価した場合の価額が本件買収予定価額に比べ著しく低額となることのみをもって評価基本通達6に定める特別な事情がある場合に該当するとはいえないというべきである。

出典:H20.3.28公表裁決

以上より、最高裁令和4年4月19日判決(及びH20.3.28公表裁決)の射程が本件のような非上場株式の評価にも及ぶのであれば、「本件通達評価額とK社算定報告額との間に大きなかい離があるものの、このことをもって特別の事情があるということはできない」ということになり、審判所の判断は誤りであるということになります。

ただ、最高裁令和4年4月19日判決(及びH20.3.28公表裁決)の射程が本件のような非上場株式の評価にも及ぶとは現時点ではまだ断言できないのではないかと考えます。

最高裁令和4年4月19日判決では、「本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」と述べているだけで、他の財産評価にも射程が及ぶか否かまでは読み切れません。また、なぜそのような判断に至ったのかも書かれていませんが、ここは私見では以下の通り考えています。

すなわち、最高裁令和4年4月19日判決は、不動産(高収益物件1棟もの)の評価に関する事案であり、通達評価額と鑑定評価額(及び実勢価格)の大きなかい離原因(①路線価と実勢価格の関係、②建物固定資産税評価額と実勢価格の関係、③貸家・貸家建付地の評価減の問題)は、評価対象不動産のみに存在するものではなく、例えば都心部の高収益物件のほぼすべてに共通して存在するものです。したがって、通達評価額と鑑定評価額の大きなかい離をもって特別の事情があるとしてしまうと、他の多くの高収益物件も通達評価によらず鑑定評価によるべき特別の事情に該当してしまうという問題があります。こうした問題も考慮して「本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。」と判断したのではないかと考えています。

そうすると、本件A社株式について通達評価額とK社算定報告額との間の大きなかい離原因が、A社株式に固有の状況や事情に基づくものと認められるのであれば、上記最高裁の射程は及ばず、通達評価額とK社算定報告額との間の大きなかい離をもって特別の事情ありと判断することもできるのではないかと思われます。

本件はM&Aの過程でちょうど相続が発生してしまったというかなりレアケースな事例ですので、実務上あまり参考にならない事例かと思われますが、評価通達6項の事例に関しては不動産だけでなくこうした非上場株式の事例も多いので、今後自身も引き続き裁決や裁判例の動向を追いかけて分析していきたいと思っています。

 

 

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