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特殊関係者以外の第三者間でも相当地代通達の適用があるか否かが争点の1つとして争われた事例(非公開裁決 H30.10.16 TAINS:F0‐3‐645)

はじめに

本件は、請求人(相続人)が被相続人(平成26年相続開始)から相続により取得した本件土地(貸宅地)につき、評価通達25(貸宅地の評価)により、自用地評価額から借地権割合40%を控除して評価すべきと主張したのに対し、原処分庁(税務署)は相当地代通達6により、自用地評価額の80%で評価すべきと主張し、その評価方法が争われた事例です(非公開裁決 H30.10.16 TAINS:F0‐3‐645)。

事例概要

✔土地賃貸借契約の概要

平成15年5月31日、被相続人は同族関係等の特殊関係のない第三者法人(本件会社)に本件土地を賃貸しました。当初の土地賃貸借契約書の概要は以下の通りです(下線は筆者)。

A 賃貸借土地の使用目的は、本件会社が店舗建物を所有することとする。(第3条)
B 本件被相続人は、賃貸借土地について、本件会社に対し、本件会社に優先する権利のない完全な借地権を設定することを保証するとともに、本件会社の契約において、目的とする商業店舗の建設を妨げる何らの制限がないことを確約する。(第6条)
C 賃貸借期間は、店舗開店日から30年間とし、期間満了の場合の更新については、本件被相続人と本件会社の間で協議するか、又は借地借家法の定めるところに従う。(第7条)
D 賃料は月額330,166円とし、本件会社は、上記Cの賃貸借期間が開始する初日から賃料を負担し、毎月末日に翌月分を、本件被相続人と本件会社が定めた方法により支払う。(第8条)
E 本件会社は、土地造成工事等投資への協力の趣旨をもって、上記Cの賃貸借期間開始の際、本件被相続人に対し保証金として10,500,000円を無利息で預託し、賃貸借開始の翌月から毎月末日360回にわたり均等償還する。(第12条)
F 本件会社は、建物建築に当たり、賃貸借土地を最も有効に利用できるよう計画を立て、許容される範囲の規模で、かつ、コンビニエンスストア用店舗に加え、その他の営業店舗又は居宅用部分を併設した建物を建築することができるものとし、本件被相続人は、本件会社が営業上の必要のあるときは、本件会社が今後建設する建物を随時変更、増改築をすることができることを約諾した。(第14条)
G この契約が中途解約、期間満了等により終了した場合は、本件会社は賃貸借土地上の建物を解体し、更地にして、無償にて本件被相続人に返還する。(第20条)
H 本件被相続人と本件会社は協力して、管轄税務署に無償返還届を提出するものとする。(第21条)
I 賃貸借土地は農業振興地域及び市街化調整区域に存するため、農振除外、農地転用、開発許可、建築確認の許可の取得を停止条件とする。(第23条)

変更契約の概要

その後、本件被相続人及び本件会社は、平成16年5月10日、本件賃貸借契約について、賃料を月額330,166円から月額318,517円に、保証金の額を10,500,000円から6,306,388円に変更する旨の契約を締結しています。

私見とコメント

当初契約の第20条及び第21条で無償返還の届出書を税務書に提出するとあるので、本件土地(貸宅地)は、相当地代通達8(「土地の無償返還に関する届出書」が提出されている場合の貸宅地の評価)を適用して自用地評価額の80%で評価して終わりじゃないと思われる方もいらっしゃると思います。

しかし、当初契約の第12条及び変更契約で無利息保証金の授受があるので、地主(被相続人)が本来払うべき支払利息相当の特別の経済的利益を受けていることとなり、本来は無償返還の届出書は提出できないんですよね。誤解・誤りが多い部分です。

法人税法基本通達13-1-7(権利金の認定見合せ)で無償返還の届出書が提出できる場合が定められていますが、「法人が借地権の設定等により他人に土地を使用させた場合(権利金を収受した場合又は特別の経済的な利益を受けた場合を除く。)において」とされており、特別の経済的利益を受けた場合は無償返還の届出書は提出できない点は明らかです。

本件では無償返還の届出書を提出してしまっているようですが、以下審判所の判断でも無償返還の届出書の提出を根拠に自用地評価額の80%とは判断していません。

請求人の主張

原処分庁は、地代水準が当初契約時で自用地評価額(過去3年平均)の6.5%、相続開始時H26で9.4%となっていることから相当地代通達6の適用ありと主張しています。

一方、請求人は、以下①②③から相当地代通達を適用すべきでないと主張しています。特に③の主張について今回はフォーカスしていきます。

①本件賃貸借契約において権利金の支払に代えて相当の地代を支払うこととされていないこと

②本件各土地の地代は、本件会社の委託を受け仲介をした会社が、本件各土地の所在する近隣の賃貸状況等を考慮して提示した世間一般の地代であるから、たとえ、地代収受割合が6%を超えていたとしても、第三者間で決定された市場価格たる通常の地代であること

③これまでに、第三者間の土地の賃貸借契約に係る貸宅地の評価について、課税庁から相当地代通達を適用すべきであるとする旨の指摘はなく、裁決例においても、相当地代通達による貸宅地の評価がされているのは、特殊な関係者間の賃貸借契約に係る貸宅地の事例が大多数であること

審判所の判断

相当地代通達の適用に関して、審判所は以下の通り述べたうえで、相当地代通達6の適用あり(評価通達25の適用なし)と判断しています(下線は筆者)。

相当地代通達の適用について
上記のとおり、本件各土地は、借地権の設定に際し通常権利金を支払う取引上の慣行がある地域に所在しているところ、上記のとおり、本件会社は、本件被相続人に対し、本件賃貸借契約に関する権利金を支払っていない。他方、本件会社は、本件被相続人に対し、上記のとおり、6,306,388円を無利息で預託し、利息相当額の特別の経済的利益を供与したといえる。
そこで、本件各土地を1画地の宅地として評価した上、本件賃貸借契約が開始した平成16年を基準とした本件各土地の自用地としての価額の過去3年間における平均額から特別の経済的利益の額を控除した金額に対する地代収受割合を算定すると、別表8の⑲欄記載のとおり6.51%となり、相当地代通達1に定めるおおむね年6%程度を超えることから、本件賃貸借契約締結時における本件各土地に係る賃料は、同通達1に定める相当の地代に該当する。

したがって、本件賃貸借契約は、借地権の設定に際し、通常権利金を支払う取引上の慣行のある地域において、権利金の授受に代えて相当の地代を授受する内容であったと認められるから、評価通達25の定めにより評価することはできず、相当地代通達6の定めにより評価することとなる。

そして、上記請求人の主張に対して審判所は以下の通りコメントして退けています(下線は筆者)。

しかしながら、①及び②について、借地権の設定に際し、その対価として通常権利金を支払う取引上の慣行がある地域において、通常支払われるべき権利金の支払がなく、地代収受割合が6%を超える地代が支払われているのであるから、権利金の支払に代えて地代の額が高くなったとみるのが相当である。また、③について、相当地代通達は、借地権の設定に際しその設定の対価として通常権利金を支払う取引上の慣行がある地域において、当該権利金の支払に代え、相当の地代が支払われている場合における借地権等についての相続税及び贈与税の全般的な取扱いを定めたものであることから、同通達の対象となるのは、一般的には、親族間や同族会社とその役員間等のような関係を有する者の間の土地の賃貸借契約が多いと考えられるが、必ずしもこのような関係を有する者の間の土地の賃貸借契約のみがその対象となるものではなく、このような関係を有する者の間の土地の賃貸借契約のみに限って取り扱うとする旨の定めもない。
したがって、これらの点に関する請求人らの主張は、採用することができない。

私見とコメント

一般的には相当の地代での土地賃貸借契約は地主と借地人が同族関係等の特殊関係者間の場合が多いのでつい誤解しがちですが、通達上は特に特殊関係者間でなければならない等の定めはありませんので注意が必要です。

また、相当地代通達の適用を検討する際の相当の地代か否かの判断時期に関して、相続開始時の地代率で判断してしまっている場合も多いですがこれも誤解というか誤りです。正しくは、審判所の判断にある通り、当初契約時の地代率で判断する必要があります。誤解・誤りが多いので審判所のコメントを以下ご紹介しておきます。

なお、相当地代通達は、借地権の設定の時、つまり賃貸借契約の開始の時の地代の額が相当の地代であった場合又は通常の地代を超え相当の地代に満たない額であった場合にその適用があり以後、権利金を支払うとともに地代の額を通常の地代に引き下げるなど特段の事情の変化がない限り、相当地代通達が継続して適用されるものと解される。

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