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敷金付き貸家の贈与税計算~負担付贈与と改正民法の関係~

はじめに

相続対策として父が所有している敷金付き貸家を生前に子供に贈与することを検討する場合、子供の贈与税計算にあたり、負担付贈与の取扱いや改正民法(2020年4月以降)に留意しておく必要があります。

今回は、敷金付き貸家の贈与税の計算方法について、負担付贈与と民法改正の関係について事例を交えて簡単にご紹介します。

敷金付き貸家の贈与税計算~負担付贈与と民法改正の関係~

以下のような父所有の貸家(満室想定)を子供に生前贈与(土地は使用貸借)する事例として3パターン見ていきたいと思います。

①貸家の固定資産税評価額:50,000,000円

②貸家の時価:70,000,000円

③賃借人からの預かり敷金合計:10,000,000円

④借家権割合:30%

パターン1:単純に貸家(建物)を贈与する場合

このような場合、貸家(建物)の贈与に伴って賃貸人たる地位が子供に移転し、あわせて敷金返還義務も子供に移転します(改正民法605条の2①④)。

そして、税務上は負担付贈与となり、以下の価格が子供の贈与税の課税価格となります。負担付贈与の特徴は、貸家(建物)の評価額が相続税評価額(財産評価基本通達)ではなく、時価になる点です。

70,000,000円(貸家の時価)- 10,000,000円(預かり敷金)=60,000,000円(贈与税の課税価格)

負担付贈与通達:負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び第9条の規定の適用について

パターン2:貸家(建物)だけでなく、預かり敷金相当の現金も同時に贈与する場合

パターン1と異なり、預かり敷金相当の現金も同時に子供に贈与されているので、子供から見れば実質的な意味での負担はないことになります。ただし、法形式上は負担付贈与にあたるのでパターン1と同じ計算になるのかが問題となりますが、この点については国税庁HPに質疑応答事例があり、負担付贈与通達の適用はない旨が解説されています。

よって、この場合の子供の贈与税の課税価格は以下のように財産評価基本通達に基づき計算されます(財産評価基本通達93)。

50,000,000円(固定資産税評価額)×1×(1-30%(借家権割合))=35,000,000円(贈与税の課税価格)

国税庁HP質疑応答事例「賃貸アパートの贈与に係る負担付贈与通達の適用関係」

パターン3:貸家(建物)を贈与する際に、親子間で賃貸人たる地位の留保合意をした場合

このような賃貸人たる地位の合意がある場合、賃貸人たる地位が子供に移転せず親にとどまり、合わせて敷金返済義務も親にとどまるのかなどが問題になります。

この点、以下の要件をともに満たさない場合には賃貸人たる地位を親に留保できないこととされています(改正民法605条の2②)

要件1:賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意

要件2:その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意

そこで、今回のパターン3のように賃貸人たる地位の留保合意をしただけでは要件2を満たしていないので賃貸人たる地位が譲受人に移転し、あわせて敷金返還義務も子供に移転しますので、パターン1と同じ結果になります(負担付贈与の適用有)。

70,000,000円(貸家の時価)- 10,000,000円(預かり敷金)=60,000,000円(贈与税の課税価格)

おわりに

以上みてきたように、敷金を絡めてどのように贈与するかによって贈与税の課税価格が大きく変わってくる可能性があります。

特に負担付贈与通達の適用有無について留意し、税務的な観点で言えば上記パターン2になるようにするのが計算もシンプルでセオリーなんですが、場合によっては時価が相続税評価額を下回るケースもあるのでその都度慎重に検討する必要があるでしょう。

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