株価評価

純資産価額の評価でB/S計上されてるものだけ評価するのは危険(R5/1/15最終更新)

財産評価基本通達ベースの株価評価では純資産価額の評価が必要となり、これが非常に手間がかかるわけですが、よくある誤りとして、貸借対照表(B/S)に計上されているものだけ評価して終わりにしてしまうということがあります。

B/S計上されていなくても評価が必要なもの

B/S計上されていなくても評価が必要な資産・負債はいくつもありますが、典型的なものを列挙すると以下の通りです。

法人税申告書別表5(1)に計上されている資産計上漏れ項目

法人税申告書別表5(1)には、税務調査で指摘されて修正申告した際の資産計上漏れ項目や、自主的に別表加算した資産計上漏れ項目が計上されています(棚卸資産計上漏れ、固定資産計上漏れ等)。これら資産計上漏れ項目は当然貸借対照表に資産計上されていないので評価漏れが生じやすいです。

実務上は、法人税申告書別表5(1)に計上されている資産計上漏れ項目も確認して、評価する必要があるかどうか(財産性の有無等)検討する必要があります。

全損保険

令和元年の通達改正により、それまで法人向け節税商品(課税の繰延商品)として販売されていた全損型定期保険などにメスが入りました(詳細は以下国税庁HP参照)。

・国税庁HP『令和元年6月28日付課法2-13ほか2課共同「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)(定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱い)の趣旨説明』https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/200628/index.htm

・国税庁HP『定期保険及び第三分野保険に係る保険料の取扱いに関するFAQ』https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/teikihoken_FAQ/index.htm

具体的には、法人が、自己を契約者とし、役員又は使用人(これらの者の親族を含む。)を被保険者とする保険期間が3年以上の定期保険又は第三分野保険で最高解約返戻率が50%を超えるものに加入してその保険料を支払った場合には、その支払った保険料の額については、最高解約返戻率の区分に応じて資産計上する取扱いとなりました。

この改正に伴い、改正後に契約する保険では全損保険はほとんど見られなくなりましたが、改正前に契約した全損保険がある場合、その契約内容を確認して解約返戻金等による評価が漏れないように留意する必要があります。実務上は、保険積立金や前払保険料等の資産計上額の有無に関わらず、法人契約の保険契約を全て確認する必要があります。

匿名組合契約の出資金

匿名組合契約の出資金を出資金勘定に資産計上したのちに毎期損失分配額を出資金勘定から減額して損失計上していると、出資金元本を上回る損失が累計で分配された時点で資産計上額がゼロになります。出資金元本を上回る損失は出資金勘定を減額するのではなく、未払費用等の負債として計上されます。

したがって、貸借対照表の資産の部だけ見ていても匿名組合契約の存在に気が付かないことが考えられます。実務上は、以下のような方法で匿名組合契約の存在を必ず確認する必要があります。

・出資金元本を上回る損失分配額について未払費用等の科目で負債の部に計上されているはずですので、負債の部の勘定科目内訳明細書を確認する。

・法人税申告書別表5(1)に計上されている出資金元本を超える損失累計額(損金不算入額)を確認する。

・匿名組合契約ごとに作成されている法人税申告書別表9(2)を確認する。

実務上、匿名組合契約の出資金は課税時期の時価評価額をリース会社に依頼して計算明細書を入手して評価に反映します。

営業権

会計上は「のれん」という科目が貸借対照表に資産計上されている場合もありますが、非上場の中小企業では「のれん」が計上される場合は非常に限定的でしょう。ただし、貸借対照表に「のれん」が計上されていなくても、純資産価額の計算においては営業権として評価が必要です。営業権評価上の細かい留意点はQ○○をご確認ください。

実務上、営業権を評価通達に従って評価をしても評価額ゼロとなる場合が多いですが、評価漏れ(忘れ)ではなく、プロとしてしっかり評価した上で評価額ゼロとなる点を確認するようにすべきでしょう。

なお、国税庁『資産税関係質疑応答事例集』(平成13年3月作成、TAINS)によれば、医療法人の出資持分を純資産価額方式により評価する場合には、営業権の評価をしないこととして差し支えないとされていますので、医療法人の場合は留意する必要があります。

借地権

評価会社(借地人)が、借地権設定時に地主に権利金や保証金を支払っていない場合、貸借対照表に借地権や保証金が資産計上されていないため、純資産価額の計算において借地権の存在に気が付かないことが多いです。税務調査で借地権の認定課税を受けて法人税申告書別表5(1)に借地権が計上されている可能性は低いので、法人税申告書別表5(1)を見ても借地権の存在に気が付かず、評価漏れが起きやすいです。

実務上は、借地権の評価が漏れないようにするために、評価会社が契約当事者となっている土地賃貸借契約の有無とその内容を必ず確認する必要があります。

即時償却された減価償却資産

過去には太陽光発電設備の即時償却制度などがありました。執筆日現在、例えば中小企業経営強化税制に即時償却制度があります。即時償却の場合、取得価額の全額が償却できますので、貸借対照表における資産計上額は備忘価額1円残しではなくゼロとなります(以下国税庁HPタックスアンサー参照)。

国税庁HPタックスアンサー『No.5434 中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除)』

したがって、例えば、評価会社の減価償却資産の件数が多いので評価の手間をかけずに貸借対照表の帳簿価額と同額を相続税評価額としてしまうと即時償却された減価償却資産の評価が漏れることになります。即時償却された減価償却資産も固定資産台帳には登録されていると思われますので、実務上は固定資産台帳を必ず確認する必要があります。

少額減価償却資産の特例を適用した減価償却資産

中小企業者等が、取得価額が30万円未満である減価償却資産を取得等して事業の用に供した場合には、一定の要件のもとに、その取得価額の全額を損金算入することができます(以下「少額減価償却資産の特例」という。)。法人税申告書別表16(7)を添付するという手続き要件もありますが、事業年度あたり300万円まで損金処理できるので、この制度を活用している中小企業者は多いです。この少額減価償却資産の特例を使うと、全額が事業供用時に費用処理(損金処理)されるため、貸借対照表には資産計上されてきません。したがって、純資産価額の計算において、貸借対照表に計上されている資産だけ見ていると、少額減価償却資産の特例を適用した減価償却資産の評価漏れが起きやすいです。

実務上は、評価漏れでも株価に与える影響が軽微なことが多いですが、例えば、毎期300万円ぎりぎりまでこの特例を継続して使っているような会社は評価漏れによる株価への影響も気になるところです。また、いざ評価しようと思っても、少額減価償却資産の特例を適用した減価償却資産は、固定資産台帳に登録して現物管理していない会社もたくさんあります。現物管理していないと課税時期に評価対象として残っているかどうか不明という問題点もあります。したがって、直前期3期分の法人税申告書別表16(7)に記載されている少額減価償却資産のみ課税時期に存在すると仮定して評価する等、実務上の対応方法を検討して評価することになるかと思われます。

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