グループ経営 法人税

グループ経営における経営指導料のあり方③(H10.2.20裁決を踏まえて)

グループ経営における経営指導料のあり方①平10.2.20裁決を踏まえて

グループ経営における経営指導料のあり方②平10.2.20裁決を踏まえて

上記記事に引き続き経営指導料の事例『平10.2.20裁決 TAINSコードF0-2-002』についてみていこうと思います。

今回で最終回です。

まだ、上記記事をお読みでない方は、この記事を読む前に上記記事をお読みください。

経営指導料の算定方法

役務提供(経営指導)の実態の有無に関する争点では、納税者の主張が認められ、税務署が主張する役務提供よりも広い範囲の役務提供の実態が認められた点は上記記事で既に解説した通りです。

役務提供の実態が認められた上で、最後に問題となるのが、役務提供の対価である経営指導料の金額の算定方法です。

この点について以下、税務署と納税者の主張は以下の通りです。

税務署の主張

税務署は、以下の算式で経営指導料の適正額を算定しています(B社が親会社、請求人が寄付金課税された子会社です)。

経営指導料の適正額=原価の額(A)+利益相当額(B)

A 原価の額は、B社が請求人に対して役務の提供をした事務管理業務及び従業員募集業務のために要した費用の額である。

B 利益相当額は、B社が請求人に対して提供する役務の内容が、事業所に対してサービスを提供する事業の範ちゆうと認められることから、U税務署管内において、類似法人411社を機械的に抽出し、その売上金額の総額と売上総利益金額の総額を基に売上総利益率(売上総利益金額を売上金額で除した割合)の平均値(以下「平均売上総利益率」という。)57パーセントを基に算定したもので、この利益相当額の算定方法は合理的である。平均売上総利益率は、次の算式により計算した。

(算式)原価の額×0.57÷(1-0.57)=利益相当額

出典:『平10.2.20裁決 TAINSコードF0-2-002』

~個人的な感想~

納税者が同じ税務署管内の類似法人411社の売上総利益率データを入手することは不可能なため、税務署の経営指導料の適正額は納税者側では再現できないという問題が残る点は既に上記記事でも書いたとおりです。

さらに、税務署の算式における原価の額については、①事務管理業務及び②従業員募集業務のために要した費用とされていますが、①②以外の役務提供の実態について事実認定により認められたため、税務署の算式自体が正しいとしても原価の額が過小であるという問題点もあります。

納税者の主張

では、納税者は実際にどのような算式で親会社に対して支払う経営指導料の金額を算出していたのかというと以下の通りです。

平成3年3月期

業務委託契約に係る経営事務管理料=直接受注売上高×8%

業務実施承認契約に係る管理料=受託売上高×40%

平成4年3月期

業務委託契約に係る経営事務管理料=直接受注売上高×6%

業務実施承認契約に係る管理料=受託売上高×30%

平成5年3月期

経営管理料=定額部分(月額500,000円)+単純荒利益×2.54%+単純荒利益×30%

基本的には、売上高に料率を乗じる方法で算出されていますが、以下若干補足します。

補足①:平成3年3月期と平成4年3月期で算式が2本に分かれているのは、親会社と締結している契約(業務委託契約と業務実施承認契約)別に子会社の売上の性質が異なるため、それぞれの契約別の売上ごとに異なる料率を用いるためです。

補足②:平成3年3月期と平成4年3月期で契約別の料率が異なりますが、これは、業務委託契約では5%~9%の範囲内、業務実施承認契約では40%~60%の範囲内といった料率のレンジを定め、都度協議して料率を確定するとしているためです。

補足③:平成5年3月期は、業務委託契約と業務実施承認契約の2本立ての契約を統合した契約に改めたことで算式が1本になるとともに、単純に「売上高×料率」という算式ではなく、「定額部分+売上高×料率」という算式に改められています。

~個人的な感想~

納税者の経営指導料の算式で、売上高に乗じる料率を固定していない点がまずいなと思いました。

すなわち、料率を事業年度ごとに変えられるとなると、そこに恣意性が介入し、利益操作の余地が生まれることになります。そして、「恣意性の介入」とか「利益操作」というのは税務リスクに直結します。

以上のとおり、税務署の算式にも問題がありますが、納税者の算式にも問題ありなので、審判所の判断が気になるところです。

 審判所の判断

審判所の判断で特に重要な部分を少し長いですがそのまま引用します(赤字、青字の色付けは筆者が加筆)。

本件各契約書における役務の提供の対価についても、経営管理料の金額は請求人の直接受注売上高及び請求人の受託売上高に料率を乗じて算定されるところ、当該料率は大きな幅をもつて定められており、また、上記イの(ヘ)ないし(チ)のとおり、本件各合意書において定められた料率も変動していることが認められ、このような契約及び合意がなされた背景には、両社が親子会社という特殊な関係にあることから、B社の意思が強く作用したことが窺える。

しかし、1)上記(イ)のとおり、請求人は、本件各契約書に定められた便益を現実に享受していると認められること、2)請求人の収益の状況をみても、別表4のとおり、請求人は、本件各事業年度において安定的な利潤を獲得しており、供与された便益が請求人の業績の改善、維持に必要であつたことは否定できないこと、3)本件契約書における業務実施承認契約の業務は、労働者に対する福利厚生サービス業務であり、これを業務委託契約における業務に比べると、原価を要せず、請求人の利益率が高くなることは容易に推認されるところ、本件契約書の改定の経緯についての上記ニの請求人の申述内容は信用するに足りるものであり、本件各契約書及び本件各合意書の取引条件が不自然、不合理なものとは認められないこと、4)本件各合意書において定められた各料率は、本件契約書で定められた料率の幅の最小から最大の範囲において、むしろ最小に近い料率で定めていることから、本件経営管理料の金額は、著しく妥当性を欠くとは認められない。

出典:『平10.2.20裁決 TAINSコードF0-2-002』

審判所は、前段でまず、売上高に乗ずる料率に一定の幅を設けている納税者の算定方法についてくぎを刺しています(赤字部分)。

しかし、後段では、それでも役務提供の実態が広く認められる点や一定の幅のうち最小値に近い料率を適用している点を考慮し、納税者の算定方法を認めています(青字部分)。

結果、納税者の勝ちとなっています。

~個人的な感想~

納税者の勝ちなのでめでたしめでたしかというと決してそうではないと思います。審判所もやはり、料率に幅を持たせた点は問題があるとしてますので、綺麗な勝ち方ではないのは明らかです。

おわりに

3回に分けて記事をアップしてきましたが、今回の事例『平10.2.20裁決 TAINSコードF0-2-002』から学べることは以下の事項かなと思います。

①経営指導契約書上、親会社が子会社に対して提供する業務内容をより具体的に項目列挙したほうがよい

②役務提供の実態を後日税務調査でも立証できるように、業務内容ごとにエビデンスを残すべき

③経営指導料の算定式(売上高×料率)における料率は、○○%~○○%といったように一定のレンジで定めるのではなく、固定値で定める方が無難

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